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荒れ狂う河のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

荒れ狂う河(1960年製作の映画)
3.0
【ミッション:中洲の住人を立ち退かせよ!】
渋谷シアター・イメージフォーラムで「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載の『WANDA/ワンダ』が公開された。それを記念して、本記事ではバーバラ・ローデン長編映画デビュー作『荒れ狂う河』を紹介する。 

バーバラ・ローデンは『荒れ狂う河』、『草原の輝き』を経てエリア・カザン監督と結婚することになるのだが、彼女の映画デビュー作にしてエリア・カザンとの初仕事の時点で好意の眼差しを向けられていることがよく分かる。開幕早々、モンゴメリー・クリフトがテネシー川流域開発公社のオフィスに入る。そこにいるのがバーバラ・ローデン演じるベティ・ジャクソンである。やる気なさげにオフィスへ入ってくる彼に対して、強気な態度で書類を回す。しかし、彼が椅子から転げ落ちそうになるとサッと手を差し伸べる。秘書としての仕事を全うするのだが、女としてでなくテネシー川流域開発公社で働く仲間としての距離感を魅せていくのである。

本作は、凄惨な洪水のフッテージを魅せていき、そこから本題の中洲立ち退き作戦が展開されていく。筏を使って中洲に行く。そこには館があり老婆とその家族が防衛している。共同体ができており、生活もある。ゆえにそう簡単に立ち退きを受け入れてくれない。モンゴメリー・クリフト演じるチャック・グラヴァーは役人として、職務を全うするため定期的に訪問するのだが、未亡人キャロルに情が移ってしまい板挟みとなっていく。

本作では、水の使い方にこだわっている。冒頭の白黒で語られる濁流の凄惨さ。その暗さは、河に伝播する。濁っていて停滞するような水の流れはチャックの心情を示しているようだ。そしてキャロルとの感情の高まりの決定的瞬間を雨に物語らせるのだが、その後降り注ぐ雨は、まるで梅雨のべっとりと身体にへばりつくような不快感あるものとなる。そして、ドロドロぐちゃぐちゃにこじれていく様子を象徴するように、闇、泥の中での騒乱があり、業火によって土地が失われていく。

組織人として職務を全うするが、その中で葛藤する内なる正義。これはサラリーマンにとって身につまされるような気分にさせられる。エリア・カザン監督は、水の変容でもってヒリヒリする痛みを表象したといえる。彼の作品の中ではあまり注目されない作品ではあるが、観応えある作品であった。
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