三隅炎雄

浅草の侠客の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

浅草の侠客(1963年製作の映画)
3.5
沢島忠『人生劇場 続飛車角』の2ヶ月後に公開された東映の侠客物。『人生劇場』で主題歌を担当した村田英雄が、大正期の浅草を舞台に、親分子分二人きり、病床の老親分を養うために演歌師として稼ぐ昔気質のやくざを、いかにも男っぽく頼もしげに演じていて面白い。村田は下宿先の今川焼屋の娘藤田佳子とかけだしオペラ歌手宮園純子、美女二人に惚れられる漢の中の漢で、その村田が、やくざの親分の妾に手を出して名古屋から追われて来た学生千葉真一を助けてやったことから、任侠と恋愛の両方で面倒事に巻き込まれていく。

話に学生が絡むことや恋愛の占める割合が大きいのは、ヒット作『人生劇場』からの流れを感じさせる。ただ恋愛と言ってもあっちの悲愴とは程遠く、佐伯清の演出も三村明の撮影も、浅草オペラの華やかな舞台を挿し込みながら、湿り気を感じさせないカラッとした、人の良い人情味ある世界をもっぱら描いている。敵対する組から村田へ寝返る代貸杉浦直樹の、重くならない都会的な垢抜けた調子も、映画の表情をずいぶん明るくしている。
最後も沢島『人生劇場』や後の東映任侠映画のような殺伐としたアクションではなく、ドスでかかってくる沢彰謙の悪党一家を、村田や杉浦たちが拳でひたすら叩きのめしていくといった牧歌的な演出になっている。
最終的な勝ち負けをハッキリさせずやや余韻が取ってあるのは、最初の『人生劇場』ラストを軽くなぞってみせたのだろうか。

公開は日活の高橋英樹主演『男の紋章』(松尾昭典)第1作と同じ1963年7月で、日活が本格的な任侠物へと踏み出しているのに対して東映はまだまだの様子だ。映画史的な興味は尽きない。
三隅炎雄

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