茶一郎

下宿人の茶一郎のレビュー・感想・評価

下宿人(1926年製作の映画)
3.8
「ヒッチコックはブロンドの女性を殺し続けた」

 毎週火曜日に金髪の女性が殺される。そんな金髪美女連続殺人事件が世間を騒がす中、金髪の女性は「安全が第一ね」とカツラを被って身を守っていた。この映画は、まさにブロンドの女性が悲鳴を上げている顔のアップで始まる。
 (おそらく)映画史上、最も多くブロンド美女を殺した(であろう)サスペンスの神様アルフレド・ヒッチコックの正式なデビュー作品。
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 性癖というのは生まれてから死ぬまで変わらないものだなァ、としみじみ思う。
 ヒッチコックの「ブロンド」への執着は並々ならない。それは『鳥』において、鳥たちがブロンドのティッピ・ヘドレンをついばみ続けるようにしつこく、ブロンド美女責め(殺し)が本人のリビドーを強く反映したものである故に、観客に恐怖を与えるのだろう。そして、(正式)デビュー作の今作でさえ、上述の通り、ブロンド美女連続殺人事件がサスペンスの発端ときた。もう一度言うと、性癖というのは生まれてから死ぬまで変わらないものだ。

 ある一人の男性が貸し部屋に泊まりに来た。彼は部屋にかかっている金髪女性の絵に「外してくれ」と「金髪」に対して強く嫌悪感を抱く不審な人物。(ここで、彼を怪しむ大家さんの描写を、天井をガラスにして挙動不審な男性を真下から撮るショットの素晴らしいこと。)この謎の人物は、もしかして連続殺人犯なのか?
 「同じ屋根の下に住む人物が怪しい」すぐ気付くのは、今作の焼き直しが『断崖』(『ゴーンガール』の元ネタの一つ)、そしてその今作と『断崖』の焼き直しの『疑惑の影』だということ。(ちなみに、監督は今作のラストを別のバージョンにしたかったそうだが、主人公の配役の都合上、それは今作でも『断崖』でも叶わなかった)
 そして、いわゆる「巻き込まれ型」「間違えられた男型」の原型のようなサスペンス要素が含まれている。今作は作家の根っこのようなものだった。キリストをモチーフにしたという無罪の男のイメージ。画としての眼福感、観客へのサービス精神も相変わらずである。

 作家性の根っこと言えば、ヒッチコック作品に頻出の「のぞき」も今作にある。そして、その「のぞき」の対象は、お風呂に入る前に服を脱ぐ(もちろん)「ブロンド美女」だ。大事なことなので三回言うが、性癖というのは生まれてから死ぬまで変わらないものである。
茶一郎

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