psychedelia

下宿人のpsychedeliaのレビュー・感想・評価

下宿人(1926年製作の映画)
3.0
ヒッチコックのサスペンス第一作だそうで。
本筋に入る前の前奏曲の部分,つまりマクラのところで多用される字幕の効果が当時としても珍しい工夫を凝らしてあり,ゴダールを想起させて面白い。ヌーヴェルヴァーグの作家たちがヒッチコックに最大の賛辞を贈っていたのは気紛れからではなかったわけだ。
ヒッチコックの卓越した映像表現がこの頃から花開いていたことに先ず驚く。が,まだまだ形になっていない。この映画,最初の20分と最後の20分を繋げただけで綺麗に完結してしまう。間のメロドラマは正直退屈だ。効果がないとは言わないんだが,この頃のヒッチコックはラヴロマンスにはあまり手腕を発揮していない。
面白くなってくるのは本当に後半も後半。ヒッチコックお得意の巻き込まれサスペンスの体をなしてきて「待ってました!」と手を叩いた瞬間に物語は終わってしまう。しかもその収束のさせ方が伏線もクソもないもので(ただ本作のDVDは公開時より20分近く短いのでそういう部分が欠落している可能性はある)拍子抜けする。
とはいえヒッチコックの映像作家としての資質は十二分に窺える。同時代の凡百の無声映画より遥かによく出来た映画であることは間違いない。まだまだチャップリンやムルナウには及ばないが....後の大成功が予見される野心作である。
psychedelia

psychedelia