ペイン

天はすべて許し給う/天が許し給うすべてのペインのレビュー・感想・評価

5.0
イーストウッドもゴダールもファスビンダーもジョン・ウォーターズもトッド・ヘインズもスピルバーグもタランティーノも…etc.

皆、ダグラス・サークの映画を前にはただ言葉を失くし、ひれ伏すしかなくなってしまう。入り組んだ仕掛け(嘘)や皮肉とは一切無縁の、まさしく"神の視点"からなっているような崇高なる作品。

遺作の『悲しみは空の彼方に』も同様、もう傑作だとか名作だとか好きだとか嫌いだとか言うことすらも野暮なような気すらしてくる破壊力である。

蓮實重彦氏もとある書面でサークについて語っていたが、そんな彼をしてもその存在の大きさをまだ語りきれずにいるようにも見えた。

"凄さを言葉にしづらい"サーク作品ながらも、作品を見さえすれば誰もがその"凄さ"、"シンプルな面白さ"に鳥肌が立ってしまうのだから本当に恐れおののく。

小津が『浮草』を撮ったときのような極彩色の衝撃、軽やかなカメラ、時短過ぎる無駄のない語り口…まさしく高橋ヨシキさんの言葉通り"映画ウマ(神)夫"である。強いて弱点なるものを言えば、その"ウマ過ぎる"が故に観賞後の引っ掛かりが生まれないところかもしれない。

一見すると話の構造、人物の設定は極めてオーソドックスでありながらも、当時のブルジョア社会や世間体の浅ましさ、女性の自立をこれでもかと先駆的に描き切っている部分もバリバリ現代に通用する。

自分も中学時代にせっかく付き合うことになったのに、周りの目がどうしても気になっちゃって…と言われフラれたことがある。今思えばこんなにアホらしいことはないわけで、本作はそれをあっけらかんと否定し、KANよろしく"信じることさ、必ず最後に愛は勝つ"とシンプルに高らかに謳いあげてくれる。

"当たり前のことを当たり前のように言っている映画"でしかないとも言える作品だが、しかしそれこそがこの複雑怪奇な世の中を生きる中で忘れてしまいがちなことであり、それを"あ、こんなシンプルなもんだったんだ"と気づかせてくれる本作のような作品こそがまさに真に偉大な作品である。
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