くりふ

リングのくりふのレビュー・感想・評価

リング(1927年製作の映画)
4.0
【寝取らリング】

ヒッチコック監督、イギリス時代初期のサイレント作品。原案脚本を本人が手掛け、奥さんアルマが潤色を担当…となっている。

先日みた『下宿人』と同じくIVC版DVDで。画質は古いし悪いし、後乗せのBGMはテキトーで煩い。が、ヒッチコック映画としてのナルホド!がどんどん積み上がり、終盤も引き込まれて満足度は高かった。小さな宝を見つけた気分。

諜報戦でも犯罪劇でもなく、男女の三角関係のお話。しかも舞台は拳闘の世界。珍しいですね。で、これがメロドラマでもコメディでもなく、やっぱりヒッチコック映画、としか言えない仕上がりになっている…もうこの頃から。それが発見で、嬉しかった。

ディテールを積み上げることで、その作品独特のエモーションが強烈に立ち上がる、というのが私にとってのヒッチのタレ、なのですが、本作では主人公、見世物小屋出身のボクサーによる異常とも思える言動がサスペンスとなり、終盤に向けぐいぐいと盛り上げてくれます。

主人公には結婚したばかりの妻がいるが、彼が挑戦することになったプロボクサーに、彼女が靡いてしまう。主人公は、その相手に試合で勝つことで、妻を取り戻そうとする。一本気で男らしく思える一方、妻のふしだらな行動をずっと止めない。これがマゾっぽい。

ボクサー全てがそうではないでしょうが、試合に勝つことがイコール、人生に勝つことになっていて、それ以外が視界に入らないよう。リアリティは薄いが、この複雑さが主人公を映画的に豊かな人物にしている。

一方、妻は瞬時に夫を裏切る名ビッチ!(笑) まったく共感できないけれど、自分というものがなく自分を制御できない女、とも受け取れる。それが終盤の行動に効いてくる。立体的な人物ではないが、役目は見事に果たしている。あ、今回もちゃんと、ヒロイン下着サービス、ありました。

この夫婦のトラブルが続くことは、互いの人間性から当然にも映る。が結果的に、主人公がそれを試練と受け止め、克服する物語に昇華している。勝つことしか頭になかったのに、勝って得る、とはならない結びに感心してしまった。

プロボクサー役は体型がユルく感心できなかった。ボクサー同士の、各々の魅力を含めたヒリヒリする闘いというより、ジャバ・ザ・ハットにレイア姫が陥落されるような気持ち悪さがある。拳闘のアクションが、チャップリン映画みたいに軽いこともチョットね。プロの監修を入れなかったのでは?

が、全編のディテールで駆使される「映画術」は健在。技術的にはまだ微笑ましいレベルだけれど、意図がキッパリ伝わるところも多い。

タイトルもわかり易い。ボクシングのリングと、求愛のリングを重ねている。愛の形でサイズと位置が変わる腕輪が面白い。結婚指輪もけっこう美味しい役どころでしたね。

個人的な驚きと発見があった分、点数はオマケしております。

<2017.1.28記>
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