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マーゴット・ウェディングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マーゴット・ウェディング(2007年製作の映画)
3.9
 アメリカニューヨーク州ロング・アイランド、11歳の息子クロード(ゼイン・パイス)は昼食を買い、列車の席に食事を運んでいた。その様子をステディカムはすぐ後ろからグラグラとした手つきで映す。母親の横顔と見間違い、3つ後ろの席に座りかけるが、対面して気付いたクロードは「Sorry」とだけ言い残して、母親の隣に座る。作家のマーゴット(ニコール・キッドマン)は妹ポーリン(ジェニファー・ジェイソンリー)の結婚式に出席するため、思春期の息子クロードを連れて久々に実家を訪れる気になった。姉妹の関係はどこかぎこちなく、長らく疎遠だった。「ニューヨーカー」誌に寄稿する作家のマーゴットの姿は、前作『イカとクジラ』の母親ジョーン・バークマン(ローラ・リニー)に呼応する。11歳の息子クロードと母親マーゴットの関係も、どこか『イカとクジラ』の次男フランク・バークマン(オーウェン・クライン)と母親ジョーンの関係を思い起こさせる。列車は目的の駅に着き、親子はサングラスをつけたり冗談めかして過ごすが、妹ポーリンの迎えが来ない。やがて渋々迎えに寄越されたマルコム(ジャック・ブラック)は初対面の母子に物怖じをしない気の良い男だった。妹ポーリンとの久方ぶりの再会。抱擁をする2人にはわだかまりなどないように見えるが、姉のマーゴットはこの結婚への不安を露わにし始める。

 前作『イカとクジラ』において、4人家族の不和を描いたノア・バームバックはまたしても姉妹の不和を描く。妹の婚約者マルコムは明らかにうだつの上がらないミュージシャンで無職だが、ポーリンは何故か彼の絶望的な才能の無さに惹かれている。だがそれを姉マーゴットは男を見る目がないと陰口を叩く。マルコムには十代の連れ子イングリッドがいて、同世代のクロードに接近しようとするのだがマーゴットは気に入らない。しかしマーゴット本人は生家のベッドでマスターベーションし、ジム(ジョン・タートゥーロ)との関係もギクシャクしている。姉妹の確執の原因はやがて明らかになるが、今作には姉妹の生みの親である母親はおろか、父親ももう1人の姉妹ベッキーも出て来ない。その上、クロードの兄であるジョシュも会話には出て来るが登場しない。バームバックは過去の回想シーンを巧妙に隠しながら、登場人物それぞれの屈折した感情を露悪的につなぐ。クロードが盗み見た隣人の姿、マーゴットが脚本で協力するディック・クースマン(キアラン・ハインズ)の娘メイシー(ヘイリー・ファイファー)の前作同様のファム・ファタールな眼差し、中盤マーゴットがよじ登った大木は大黒柱不在の家を憂うが、全てを見守った上で壮絶に朽ち果てる。『イカとクジラ』と比すればこちらはかなり難解で、観客を突き放すような描写が延々と続くが、『イカとクジラ』の姉妹編のような後味を帯びている。
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