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少年の中のレビュー・感想・評価

少年(1983年製作の映画)
4.0
実らない不倫の末に生まれた少年と、美しいその母との物語。
経済的には恵まれてるけどかなり歳の差がある男と母は結婚する。この男、お見合いの席で「母子2人とも必ず幸せにしますよ」なんて笑顔で言い、今の時代の価値観なら、私たちの幸せを勝手に約束しないでとか言い返されてもおかしくなくて、どんな傲慢なやつかと想像しながらみてたけど、最後の最後まで素晴らしい人間やった。理解のある人間ってこういう人なんやって教えてくれた。
男のおかげで少年と母は幸せをつくる環境を整えられて、母と男とのあいだに2人の息子も産まれる。少年と母だけでは決して辿り着けなかった場所まで男はたしかに導いてくれる。
とはいえ少年としてはそんなことまで慮れない。男には感謝してるし毎日は楽しいけど、苗字が変わることに違和感たっぷりやし、男と2人きりでいると若干よそよそしくなってまうのがつらい。いつまで経っても後ろめたい気持ちなしで男のことを父やって認めることはできひん。
一方で、母も手放しで満ち足りた毎日を送ってるかというとそうでもなさそう。かいがいしくやってる家事と育児に、専業主婦の義務というよりも男に対する負い目のようなものを感じさせる。ただ、ホステス時代からの親友とは今でも良好な関係を築いていて、少年には厳しすぎるくらいに叱ってしまう母と、良い塩梅に緩い親友とが絶妙なバランスやった。
そんな中で、少年は陽気で元気な男の子に育ち、友達も多く成績優秀でもあった(通知表には傲慢不遜と書かれてしまうのだが)。
根は優しい少年やったけど、中学に入り周りに不良が増えると少年も不良とつるむようになる。小学生の頃はピンポンダッシュ程度やったイタズラは徐々に度を越したものになっていき、ついには退学の瀬戸際に立たされる。男と母が少年に与える愛は結婚当時からめっちゃ大きくて、今回も学校に出来る限りの嘆願をしてことなきを得る。少年のイタズラというか、犯罪や命に関わる怪我にまで及ぶ非行の原因はなんなんやろうか?
合理的に生きれば、少年はなんでも人並み以上にやり遂げられる才能がたぶんあった。男のおかげで経済的にも不自由ない。絶望的に嫌われていた一学年下の女子に、人となりを知るにつれ好かれる魅力も持ってた。やのになぜ?
母の気を引きたかっただけなんやろうか。母は、男との子である2人の弟よりも、少年に厳しかった。厳しいていうことは一見して冷たい態度やったかもしれへん。けど、少年が問題を起こしたときに見せる母の熱量は愛がなければありえへんものやったし、少年とだけ幸福とも不幸ともいえへん過去を共有してた。だから、母としてはちゃんと少年を愛してた。コミュニケーション不足で、ちゃんと伝わってなかっただけなんや。
少年が一万元(現代の日本で50万円くらいなんかな?)をタンスから持ち出して、ケンカで怪我した友人の医療費に充てたことで、母は激怒する。「あんたはもううちの子じゃない。出ていって」て言ってしまう。ここから男と少年もぶつかり、母の自殺にまでつながる。
自殺までだいぶ急で飛躍した感はあったけど、とにかくそうなる。とにかく少年と母に言葉が足りてなかった。

少年時代は言葉も知らんし、感情は日々変わっていくし、状況を俯瞰する力もなくて、うまく自分のことを言葉にして伝えることができひん年代やと思う。知識、経験、能力がないというより、感情が大人より複雑やから言葉にできひんのやろうか?
少年と重なる点が多い俺自身の人生を考えた。あの頃を言葉で表現しようとすればできるんかもしれんけど、それは時間が経って振り返ることでしかなくて、当時それをするのとは明確に違う。
言葉が足らんっていうのは辛いわ。しようとすればするほどドツボに嵌ってまう感覚はすごいわかる。どうすることもできひんかったんやろうな。
少年はスポーツでもしてればよかったんやって思った。そう思ってみてたら少年は進路を高校じゃなくて空軍学校にしてた。過去の関係を一度絶って、新しい環境でやり直すために。現実的で、根が優しくて真面目な少年らしいええ道やんって感じた。

それにしても邦題でつけた「少年」は成功やな。
小畢的故事、growing up、ていうのが本国と英語圏のタイトルになるんかな。冒頭に3つとも出てたけど圧倒的に少年がええ。
少年って言葉の幅が広くて、自由,青春,夢,勇気,未熟,,,とかいろんな言葉を連想できる。こうやって連想する言葉のどれもに少年は関連してるんやけど、置き換えることはできひん。小畢的故事って特定するほど限定的で特殊な物語じゃなくて、まあまあ普遍的な事柄を扱ってる映画やと思う。growing upも雑や。だからやっぱりこの映画は「少年」でしかない。

あと、田舎っぽい琴とか笛の音楽が牧歌的で映画にマッチしてた。素敵。
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