シズヲ

不安は魂を食いつくす/不安と魂のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

未亡人の老婆と出稼ぎ労働者であるアラブ系移民の恋愛。元ネタとなっているダグラス・サークの作品は未見。アキ・カウリスマキが本作の作風から多大な影響を受けているらしいのは何だか納得がある。

人種、年齢差、社会的立場、幾重にも連なる壁が二人に向けられる差別的な眼差しとなっていく。社会の下層から社会のアウトサイドへと追いやられていくエミの姿が痛ましい。そうしてアウトサイダーと化していくエミとアリを描くカットや演出の数々が印象深い。二人の愛を情緒によって映すこともなく、ただただ淡々とその孤独を切り取っていく。

戸籍役場を後にするエミとアリの場面、二人の幸せな姿に反する茫然と見つめるような引きのカメラワークには閉塞感すら感じてしまう。入籍直後の高級レストランのシーンも夫婦の幸福とは裏腹な“冷淡な眼差し”に満ちているし、外のテラス席で人々に凝視されながら向かい合うシーンも忽然とした疎外感に溢れている。壁や扉などを挟んで登場人物をフレームの中へと収めるような画面構成が度々見受けられるのも味わい深い。登場人物に対する観察の構図めいている。

周囲の偏見によってアウトサイダーへと追いやられたエミだけど、印象的なのは時間を経て周囲がアリの存在に折り合いを付け始めてからの展開である。社会という“共同体”へと再び帰属したエミは、“ドイツ人”と“移民”という線引きを無自覚のままに引いていく。マジョリティ側への帰参を果たした結果として描かれるこれらの下り、直前の旅行前の「帰ってくる頃にはきっと良くなってる」という発言も併せて非常に皮肉めいた描写である。ある意味で“差別”の本質を示している。

自動車整備場で嘲笑を受ける場面は“コミュニティの逆転”であり、エミが過ちを突きつけられる瞬間めいている。それだけに“あの酒場で一緒に踊ること”へと回帰して和解へと至る終盤の流れは印象深い。いきなり悲劇的にぶっ込まれるラストには正直思うところもあるが、「幸福が楽しい時間とは限らない」という冒頭のテロップが直前の和解すらも食い潰すかのようで悲哀が漂ってくる。
シズヲ

シズヲ