しちれゆ

不安は魂を食いつくす/不安と魂のしちれゆのレビュー・感想・評価

3.8
地元ミニシアターにてファスビンダー傑作選(3作品)をやっているのだが、同時にウルリケ・オッティンガー〈ベルリン三部作〉も上映中、しかもこれら6作品が日替わり上映されていて混乱。間違えてオッティンガー作品に行きそうになった。両監督とも見たいけれど時間がなく…。

ということで初ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。
60代の寡婦エミとモロッコ移民の労働者アリ(40代)が初めて一緒にレストランに行き「いちばん高いものを食べましょう」と注文したのがキャビア、蟹スープ、シャトーブリアン。シャトーブリアンの英国風とは「ほぼ生(なま)」。かつてイギリスでタルタルステーキを食べた人が狂牛病で死んだ事件を思い出した(脱線)。

2人は共に暮らし始めたが彼らの前には人種差別、エイジズムが立ちはだかる。エミは息子から「淫売」と言われ、黒い肌のアリは「爆弾テロの国の奴」「不潔」と言われる。けれど愛し合っている間はよかった。次第に2人(とくにアリ)は愛に倦んできて、エミは支配的になる。アリの友人たちのエミに対する心ない放言が辛い。年老いた女を妻にしていることを恥じているかのようなアリも。
不安とは外界からもたらされるものではなく内なる心が生み出すもの。周りの人々が2人を受け入れ始めても互いの中の″引け目″が払拭出来ず 綻びが生じてしまう。

画面前方に部屋の壁を配し額縁のように切り取られた奥にある2人の世界がハマスホイの絵のように端正で硬質で美しかった。

それと…ファスビンダー監督って故西村賢太氏にかなり似てる。それでなんとなく無頼派(アウトロー)的な印象を持ってしまっていた。違いましたね💧
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