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不安は魂を食いつくす/不安と魂のdiesixxのレビュー・感想・評価

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初老に差し掛かった孤独な清掃係の女性エミは、モロッコからの移民の黒人労働者で、20歳近く年下の青年アリと偶然知り合う。アリもまた、異国の地で劣悪な生活環境のなか、孤独を抱えていた。二人はたちまちに恋に落ち、結婚するが、エミの子どもたちの激しい拒絶、近所や職場でのあからさまな差別にさらされ、孤立していく…。ファスビンダーの代表作であり、特有の毒々しい色使いと抜群に決まった構図により、ワンシーンワンシーンが絵画のようである。プロットと色使いはいうまでもなく、ダグラス・サークの作品から強い影響を受けている。サークのメロドラマと出会うことで、これまでになかった通俗性を獲得することができた。エミとアリの交流を描く手つきは温かで慈愛に満ちていて、。周囲の拒絶に耐えかねたエミがカフェテラスのテーブルで慟哭する場面には胸を締め付けられる。「旅に出て戻ってきたら全てがうまくいくようになる」というエミの気休めのような願望が、成就していく展開にはやや面食らうが、今度は逆にアリとの関係に軋轢が生じていく…というのも示唆に富んでいる。ラストシーンもまたサークの『天が許し給う全て』の引き写しとなっているが、希望の象徴たる鹿は登場せず、二人の未来には困難も、安息も予感させるようなオープンエンディングとなっている。
アリを演じたエル・エディ・ベン・サラムは、当時のファスビンダーと恋人関係にあった。酒癖が悪く、酔って人を刺し、逃亡先のフランスにて逮捕。獄中で自殺したという数奇な人生を歩んだ。
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