麻衣

不安は魂を食いつくす/不安と魂の麻衣のレビュー・感想・評価

4.0
2人でいるのにアリの心が孤独に苛まれ、次第に冷えていくのを嫌というほど感じる。周りからの風当たりが強いのもあるが、エミのなかの差別感情がちょくちょく顔を出していて、アリがそうなるのもわかる。結婚後、エミは人々が自分に向ける嫌悪に耐えられないと泣き言を漏らすけど、それはアリがこの地でずっと受けてきたものだし、それに対する抗議というよりはなぜ自分までこんな目に遭わねばならないのかと言っているように聞こえた。それから同僚にアリを紹介するシーン。「連中」は体を洗わないという部分は否定せずアリは毎日シャワーを浴びるわよとだけ述べ、いい身体でしょと自慢げに同僚たちにアリを触らせる。アリや周りが言うように明らかにエミはいい人で、これらがすべて無自覚であろうことが余計に心苦しい。
周りは言うまでもない風当たりの強さ。商品を買ってほしい、地下室を貸してほしい、娘の面倒を見てほしい、そういう自分たちにとって都合のいいときだけ手のひらを返すのが本当に嫌な感じだ。差別する側・される側は常に表裏一体でアリの同僚たちがエミを嘲る態度をとったのも本質的には同じことだ。人種問題を扱う映画を観ていつも思うことは、いざ自分が人種の異なる人々と異文化交流以上の関わりを持とうというとき、差別感情を抱かないとは言い切れないが、少なくとも相手に対するリスペクトは忘れないでいたいということ。
ひと昔前のこの映画に出てくる人たちに対してそれにしてもこんなひどいことする?と思えているのは少しでも良い方向に変化していると思って喜んでいいのだろうか。イギリスのドラッグストアで買い物をしたとき釣り銭を投げられたが、あれは通常接客だったんだろうか。
アリは泣き言を言わない。ただ身体を壊す。
麻衣

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