ダイナ

イングロリアス・バスターズのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

タランティーノ流戦争サスペンスアクション映画。キルビルに肩を並べるエンタメ感。特に注目したいのは数回発生するユダヤとナチスの対面シーンの緊張感。監督が得意とする「結末には過激が予見される一触即発の会話劇」の真髄が堪能できる一作に仕上がっています。

序章から最後まで存在感を知らしめたハンス・ランダや地下酒場を地獄に変えたヘルシュトローム。彼らのユダヤを定める鋭い嗅覚。誘導尋問のような言葉選び、じわじわと追い詰めるその手法(言語の使い分けによる工作が面白い)による緊張感が本作の魅力の大きい部分。狭い空間での嘘・裏切り・娯楽の裏に潜む恐怖・バイオレンス等レザボア・ドッグスの魅力を継承しているよう。また全編BGMの低音の入りが「Little Green Bag」を想起させられて、よりレザボア風味を随所に感じました。

ヒトラーの登場が控えめな本作ですが、結果的にユダヤハンター達を霞ませず目立たせている点に一役買っているようにも思えます。この点はプレミアにヒトラーがくる!という激アツ展開を若干薄くしてしまっている感もありますが、そこは観客自身がヒトラーの存在感が充分大きい認識を持っているから大丈夫ということなのでしょう。

館内一掃の迫力満点なシチュエーション。人生最後の大一番前のキスシーンとスクリーン裏の煙草が最高。スクリーン上の愛した女から合図を受けての投下は個人的最高ポイント!たまらん!高所からユダヤを虐殺する映画よろしく高所からナチスを狙い撃つ重なる構図も印象的。気付いていたのにショシュナを逃したハンス(ミルクを頼んだ点にお見通し感を感じます)が気になっていましたが、彼のスタンスを知るとあそこで捕まえない意図にも納得がいきます。こちらに利をもたらそうが勝てそうな馬に乗る不届き者に鉄槌を下す展開にも「悪人はそれ相応の報いを受ける」タランティーノ節を感じました。

面白かったのですが、少し気になった点もあります。一つに「ユダヤの熊」ドニーのバイオレンスの少なさです。周囲から恐れられていた割に圧倒的暴力が目立ったのは登場時のみだったのは少し物足りない印象。人間の頭にフルスイングできる奴はヤバイってのはウシジマくんでも描かれていましたが、このチームの中では突出して目立つかと言われると自分は微妙に感じます。メンバー全員敵の頭皮削ぐメンタルを持ち合わせてますし、アルドは傷口にズボズボしますし、バスターズ自体がバイオレンス精神を持ち合わせた集団なため、その中でも一目置かれていたドニーには期待を寄せいてましたが暴力的印象は薄め。クライマックスは彼に関しては銃でなくバットや何らかの個性が出た暴れ方を観たかったです。顔面蜂の巣じゃ物足りない。ヒューゴの散り方は贅沢な消え方というより勿体なさを感じますし、オマーに関しても終盤の見せ場がいいばかりに途中からのポッと出感がモヤモヤ。結論、バスターズ面々の描写にもう少し時間を割いて欲しかったと思いました。当初の12時間ドラマ版がもし今後実現されるなら各登場人物の背景(特にバスターズ面々)を掘り下げてほしいと思ったりもします。

また映画館を燃やすと言う発想。ショシュナのナチスに対する憎しみは序章から十分伝わってきます。しかし「自分を匿ってくれた引き取り先の、戦火から守りきった映画館」を無くすことに戸惑いがないのも気になりました。映画館は老朽化でこれ以上修復不能、引き取り先のナチスに対する憎しみ>映画館への愛、経営難で廃館寸前、といった「守り切った映画館を失うことに躊躇しない理由」を映して欲しかったです。しょうがないと思わされるポイントがあればナチへの復讐に使われても個人的にはスッと腑に落ちていたと思います。

バスターズのモデルが実在したというのはとても興味深いです。歴史上の負に対し映画内で鉄槌を下すというのはタランティーノ作品に散見される描写。ナチスという有名な題材かつヒトラー抹殺という歴史改変、覆すことのできない過去を映画によって塗り替えてしまう離れ業は当時の観客に大きな爪痕を残したでしょう。自分はザックリいかれました。
ダイナ

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