海

イングロリアス・バスターズの海のレビュー・感想・評価

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映画でもいいし小説でもよくて詩でもいいし絵画でもよくて、ただその中だけに在れる、フィクションに拠る現実の救済は、あるときから変わらずずっとわたしに感動を届け続けてくれているし、これからの人生にも絶対的に必要不可欠で、そして多くの人にとってそうであるはずだと、復讐を成し遂げる際のバスターズの人を痛め付けた後とは思えない清い笑った顔を見ていて心底そう思った。この圧倒的な知識と愛を終始感じられる全ての細工に附された意図と、そこに主張はせずとも透けて見える背景に、タランティーノのファンは夢中なのかもしれないと思うし、自分もきっと無我夢中にこのひとの映画を観ていて、好きな音楽を聞くと踊り出そうとする手脚のように映画を観ている間は感覚のまま笑ったり泣いたりひたすらいつまでも出来る気がする。めちゃくちゃに暴れ回ることが、人の頭の皮を剥ぐことが、汚い言葉で罵ることが、モンスターが人類を滅ぼすことが、取り立てて残酷には見えなくなる世界が映画の中には必要だと思っていて、私やあなたたちの中には、行き場を失った復讐や仇討ちや叫びがかならずあって、だって誰かを殺したいほど憎まないまま死んでいく方法があるだろうか、そして体というただの肉塊に意味などないかもしれない魂を閉じこめ続ける両の手を無意識にそこに置いていられるほど平和にボケられる日など来るだろうか、心の暗さを自分で上手に可愛がる人もいるかもしれないけれど自分はたぶんずっと、それが出来ない人たちの物語や虐められるマイノリティの物語や彼らが最高の主役になる虚構の物語に助けられてきた。映画は常に海面の下に隠れている氷山と共にある、今、人種的正義ジェンダー平等受け容れろ多様性と語っていた同じ奴の唇から“命があるだけマシじゃないかもっと苦しい事がこの世に沢山ある!““1日3食食える奴を貧困とは呼ばない!“と漏れ出す舐め腐った支配欲に塗れた審判の数々は、今日も明日も最悪だけど昔の方が良かったなんてことはきっと、おそらく、無いと思う。そしてこれからわたしたちの現実を救済しにやって来る映画は沢山沢山あるはずだ。復讐は何も生まないかもしれないが、それを教えるための長い長い物語とそれを遂行する最高の物語があるべきだ。人を襲うかもしれない獣を殺すことを可哀想だと言う人間は偽善者かもしれないが、殺されていく動物にせめて可哀想だと感じる心は失くさないでいるべきだ。捨てたらいけない正義と罪があるじゃないか。映画を観て爆笑できる、映画を観て涙が止まらなくなる、それを誰も幸福と呼んでくれなくてもわたしは幸福だと叫びたい。狭い部屋の小さいモニタ越しの人類に、映画よわたしたちの味方でいてくれてありがとうと、自意識を過剰に、どこまでも自惚れ、思うよ。
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