LalaーMukuーMerry

イングロリアス・バスターズのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

4.0
腹に一物を抱えた悪人の冷淡でスリル満点の会話シーン、フィクションとはいえこれほど史実を捻じ曲げてまで話を盛り上げるか! 悪人を魅力的に描くのはさすがタランティーノ監督。これは面白かった!
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ナチス皆殺しを狙った二つの計画が、パリで行われる予定のナチス首脳(ヒトラー、ゲッペルス)肝入りの映画祭「ドイツの宵」をターゲットにして静かに進行していく。
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一つは、ナチス・バスターズの異名を持ちヒトラーにも恐怖心をもたせた神出鬼没の謎の部隊による、女スパイを使った大規模破壊工作。もう一つは、ナチス占領後すぐに家族を皆殺しにされて一人だけ生きのびた若いユダヤ人女性(=メラニー・ロラン)による復讐計画。
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そこに立ちはだかるのはナチス親衛隊(通称SS)のランダ大佐(=クリストフ・ヴァルツ)。隠れたユダヤ人の発見に際立った能力を見せて高い地位を築いた、冷静で観察眼鋭くて実に気味悪い男。この男のキャラがこの作品を魅力的にしているのは間違いない。
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タランティーノ監督の映画だから、暴力的殺人シーンに耐性がないと心穏やかにはとても鑑賞できない。もしも宇宙人(歴史的背景を知らない人)がこの作品に登場するどっち側の人物がより悪人かと聞かれたら、迷わずナチス側と答えるとはとうてい思えない。どっちもどっちで、ロクなもんじゃない(メラニー・ロランだけは別)。でも、作品としては面白いと感じてしまうんだよね。そんな私はやっぱりイングロリアス?
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蛇足1
タイトルの「Inglorious Basterds」。ゴーストバスターズは「Ghostbusters」、バスターズの綴りがちがう。basterは全然別の意味だし(肉にタレをかける人、道具)、最後にdがつく単語は辞書にない。???と思っていたらこれは意図的な誤字、タランティーノ風綴りとのこと。なんだと思ったら、イングロリアスの綴りもInglouriousと間違っていることに気づいた。悩んで損した
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蛇足2 (長くなったので素っ飛ばしてください)
今週一番の衝撃は、スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリちゃんだった。気候変動や地球環境のコンピュータ・シミュレーションの精度は絶えず上がりつづけ、信頼性も具体性も10年前よりはるかに向上した。それが指し示すほんの少し未来の地球の状態には、そら恐ろしさを覚える。平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃以内に抑えるために、今後人類に許されるCO2の総排出量は既に計算で求まっている。今人類はその貯金をまっしぐらに食いつぶしているのだ。子どものため、将来のためと口では言うが、こと環境問題になると言葉とは裏腹の行動を、全ての先進国の人間が行っている。
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彼女は15才のとき、パリ協定に沿った行動をするよう国に求めて、スウェーデン国会の前でたった一人でデモを始めた。そして毎週金曜に行い続けたデモのツイッター映像が話題となって仲間が次第に増えていき、世界中の共感を呼び、1年後には国連に呼ばれて演説するまで活動の輪は大きくなった。彼女はCO2を出さないため、菜食主義になり、車にも飛行機にも乗らないし、アメリカまでの移動にもヨットを使った。
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気候変動は嘘っぱちだと恥知らずにも言ってのけるトランプ大統領、そこまで言わないがお金と経済成長のことしか頭にない資本主義社会の指導者たち。気候危機についてはみんな見て見ぬふりをしているだけ。Inglorious !
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失われた30年を取り返したと言わんばかりに経済政策の成功を訴える安倍首相。次の柱は安い労働力確保のために移民を積極的に取り込んで経済を維持することだ(政府は決して移民とは言わないが、国際的基準に従えば間違いなく移民)。外国人移民の生活や労働実態、その子供たちの教育実態は最近ニュースで取り上げられるようになった。どれも信じられないほど酷い状態で深刻な社会問題になっているのに、政府にそれを改善する意志はないように見える。憲法25に保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は、外国人移民にはないと本気で考えているからだ。条文には「すべての国民は」とあるから、移民には日本国憲法は適用されないと。
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恥ずかしい、ホントに恥ずかしい。
外国の人たちよ、こんなに酷い国に騙されて来てはならない。
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差別や格差、社会の不正を無くそうと頑張って活動している人たちがたくさんいるのも事実。そういう活動が実ってほしいと願っている。それがうまくいって人間社会が全体として良いものになったとしても、もしそのしわ寄せが人間の周り、動物・植物・生態系・自然環境に及ぶようなものだったら元も子もない。巡り巡って人間社会も災いを受けることになる。
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今の私たちの生活は基本的にIngloriousなのだ。人間社会も、その構成員である一人一人の人間も根本的に変わらないといけないし、そこまで考えて活動することが必要なのだろう。