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素敵な人生のはじめ方のLCのレビュー・感想・評価

素敵な人生のはじめ方(2006年製作の映画)
3.8
面白かった。

丁度良い。そんな印象。物語は明るい気持ちになれるし、時間の長さは感じないし、だからこそ疲れないし。

作中、車の中で2人が歌う歌詞を書き起こすとこうなる↓

Al pasar la barca
Me dijo el barquero
Las niñas bonitas
No pagan dinero
Yo no soy bonita
Ni lo quiero ser
Yo pago dinero
Como otra mujer

この曲、所謂「童謡」的なものであり、だからこそ様々な見方がなされている。歌い伝えられる歌詞も少しずつ違いがあったりするが、どれも出だしは同じ、この歌詞。

渡船に乗ってほしい船頭(男性)が「美しい女性は払わなくて良いよ」と言うのに対し、「私は他の女性と同じ」と返す。
作中の彼女は「私は美人じゃないから払うの」と説明するが、女性が自分のことを卑下していると受け取ることも、勿論できる。
しかし、「耳障りの良いことを言って渡船に乗せようとする意図は何か、このように事件に巻き込まれる可能性を考えさせる」とか「女性が男性に品定めされるという価値観を植え付ける」とか、本当に様々な見解がある。

本作の文脈で改めて考えてみると、私はかっこいい曲に感じることもできると思う。
美人さんはタダでどうぞ、と言われて、「美人じゃないし、美人でありたくもない。他の女性と同じように、払うよ」と返す。
あなたの為に美人であるわけではない、私は私に誇りを持っており、それは渡船にタダで乗る為のものではない、そんな心情を読み取ることもできるのかなと。
作中、彼女はもがいていた筈だ。夫を寝取られ、仕事は他人の分も押し付けられ、それでも金銭的に余裕がない今の状況から抜け出そうとしてはいるものの、希望は抱けないでいる。
美人じゃないし、美人でいたくもない、だから払う。
自信のなさと同時に、正当な評価への望みもあったのかもしれない。

面接前って神経質になるし、いくら余裕を持っても時間が足りない。気持ちを前向きに挑もうと整理する時間、でもやっぱり難しくて、張り詰めたまま過ぎる時間。
そんな時間になる筈だったのだろうが、迷子の俳優さんを見捨てることができなかったが為に、思わぬ時間の過ごし方をすることになった。
最初はそりゃもうハラハライライラしただろうなあと思う。大切な面接があるのに、おっさんのマイペースに付き合ってたら気持ちの準備をする暇もない。
でも、そんなおっさんはおっさんなりに、彼女の力になろうとしていた。彼女の背中を押すことで、自分の気持ちを整理できたんだろう。彼女にかけた言葉も笑顔も、彼自身に向けられていたかもしれない。

これはただのスタートだ。道は違うけど、お互い進んでいこう。
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