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パリのジャンヌ・ダークのrupertのネタバレレビュー・内容・結末

パリのジャンヌ・ダーク(1942年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

本作は第二次大戦中に製作された反ナチ映画ですが、オープニングクレジット後のパリのシーンに、アステア&ロジャースの「コンチネンタル」の冒頭がそっくりそのまま流用されているのには驚きました。
共に同じRKO作品であるにしても、こんな使われ方もするんですね。

ナイトクラブの回転する舞台の上で、コーラスガールたちが指にはめた人形を踊らせながら歌っている「コンチネンタル」の場面が流れたあと急に映像が途切れると、撃墜されたものの命は助かった5人の英国航空部隊の兵士が映し出され、地下組織の仲間がいるナチス占領下にあるパリへ向かうことになるという導入部。

5人の中の“ベイビー”という愛称で呼ばれている一番若い兵士をパラマウントの新人スターとして注目される直前期に当たるアラン・ラッドが演じていて、アイドル的なルックスのハンサムガイでカッコ良い。
若さ溢れる所作と少年っぽさの残る笑顔も魅力的で、人気が出たのも頷けます(ちなみに、本作の次が出世作となった「拳銃貸します」です)。

独軍兵に追われた際に撃たれて重傷を負ったベイビーを尾行している追っ手の男の注意を逸らすために、航空隊のリーダーであるポール・ラヴァリエ(ポール・ヘンリード)が一役買うのですが、今度はポールにその追っ手の男が張り付いてしまう。

追跡をかわすために逃げ込んだのが、カフェの店員として働いているジャンヌ(ミシェル・モルガン)という若いパリジェンヌの部屋。
洋服の裏に隠れていて、ジャンヌが着替えをしようと服を脱いだときに、ポールと顔を合わせるなんていう状況下でも、ヒッチコック映画のように色っぽくはならず、やがて、2人が恋に落ちるような展開になってもロバート・スティーヴンソン監督の演出はかなり地味な印象を受けます。
「ジェーン・エア」などを観ても、この監督が60年代にディズニーで「フラバァ」や「メリー・ポピンズ」を作った人と同一人物であるという点について、イギリス映画的な雰囲気を感じる以外にほとんど共通するイメージがないというのも凄いことですね。

ヘンリードは、これが初のハリウッド映画への出演とのこと。
追われる男を余裕が感じられる演技でみせていて、屈託のなさと嫌味のなさという点では好感を持てますが、ヒロインを巻き込んでしまうことへの葛藤がもっとあってほしかったかなと思いました。

一方、本作のモルガン(彼女も本作が初ハリウッド作品)は、ピュアで飾り気のない可愛らしさを前面に出していて、そうであるが故に、終盤のポールを救うために彼女が勇敢にも取った行動の気高さと悲劇性がより心に刺さります。

ジャンヌが連絡役を引き受けて出かけるときに、ベレー帽と透明なコートを身に付けているのは、モルガンを一躍世界的に有名にした戦前の「霧の波止場」へのオマージュのようにも思われますし、本作の前年にフリッツ・ラングが監督をした「マン・ハント」では本作のポールと同様にナチスに追われるウォルター・ピジョンを助けるジョーン・ベネットもベレー帽にコート姿というよく似た服装をしていたので、その両者が辿る運命が同じであるということまで意識してつくっているのかは分かりませんが、そうだとしたら相当凝った演出ですね。

「マン・ハント」のジョーン・ベネット、「熱砂の秘密」のアン・バクスターとともに、反ナチ映画の悲劇のヒロインとして、本作のミシェル・モルガンも記憶しておきたくなります。

また、レアード・クリーガーがゲシュタポの高官フンクを貫禄たっぷりに演じていて、ジョン・ブラーム監督作品のようなニューロティックな演技こそみせないものの、あの巨体と慇懃な態度は「天国は待ってくれる」の閻魔大王と並ぶ存在感があり、早世したのが惜しまれる逸材であったことを感じさせてくれます。

さらに、ポールを追うゲシュタポのエージェント(アレクサンダー・グラナック)の描写も印象的です。
尾行をまいて逃げおおせたと思っても、必ず近くに姿を現すのが何とも不気味。
サウナ風呂での直接対決に至るまで絶えず緊張感が持続されるのが素晴らしく、ラッセル・メティの撮影の良さもあって、湯気が立ち込めるなかでの格闘シーンには臨場感がありました。

自由フランス政府への協力者としてポールたちの手助けをする神父役のトーマス・ミッチェルや、老教師役のメイ・ロブスン(本作が遺作)も忘れがたい存在で、特にロブスンの演技は、「バルカン超特急」のメイ・ウィッティのように、オンオフが切り替わる際の冴えが感じられて見事でした。
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