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検察官/勾留のryosukeのレビュー・感想・評価

検察官/勾留(1981年製作の映画)
3.7
 オープニング、雨に打たれる警察署の屋根を捉えていたカメラがクレーンで動き、窓越しの横移動で建物内部の様子を映し出す。切り替わったカットで屋内に移動し、そのままトラッキングへと流れるように繋がっていく。この導入だけで期待感が高まる。とはいえ、基本的に一つの室内で物語が推移するため、以後はダイナミックな撮影は見られず、切り返しを中心に映像が構築されるのだが、ショットサイズとアングルを辛抱強く変更し続け、鏡を使用し、人物とカメラを動かし続けることで、決して広くない一つの空間の映像が単調にならない。室内劇をやるならこういう風にやってほしいよね。雨水が流れ落ちることで外景を不明瞭にする窓も雰囲気作りの良いアクセントになっている。
 途中に挿入される浜辺に遺棄された少女の遺体のショットが、公証人の男の顔と連続する形で差し込まれることで、観客に、これは単なる客観的な映像なのか、それとも公証人の記憶の中の映像なのかという疑念を抱かせる。後に、公証人が妻に拒絶され廊下の先の扉が閉まっていくショットが挟まり、これが公証人の男の主観ショットだと思えることから、後者の可能性が高まっていくが......。
 密室劇を退屈にしない要素としては、老いたリノ・ヴァンチュラの深いシワが刻まれた顔面の圧と深みのある低音ボイスも大きいだろうな。出番は多くはないとはいえ、ロミー・シュナイダーの存在感も流石。辛い出自からおそらく決死の覚悟で階級移動のチケットを掴みとったにも関わらず、ある日悍ましい光景を目にしてしまったという設定に一瞬で説得力を持たせるニヒリスティックな笑み。大いなる謎を感じさせる役者だ。警察署から出てきた彼女がリノ・ヴァンチュラに一瞥もくれず去っていく振る舞いの強靭さ。『なまいきシャルロット』の主人公に視線を向けずに去っていくクララを思い出した。ラスト間際、リノ・ヴァンチュラとロミー・シュナイダーを単純に切り返すのでなく、ぐるっとカメラが回って肩越しに向かい合う画を作り出すショットが記憶に残る。
 ラストの展開に関しては唐突な印象が強いなと思ってしまった。そもそも、第三の被害者を殺した犯人と今まで問題にしていた犯人が同一であると断定できる理由も無い段階でガリアンが間違いを悟る理由が不明なので感情的についていけないし、死体が向こうからやってくるのもあまりに取ってつけたような印象が強い。妻の拳銃自殺に関しても強い動機付けは無く、「衝撃のラスト」のための道具に見えてしまう。とはいえ、公証人の男にグダグダ喋らせる機会を与えず、ただ刑事の名前だけを叫ばせ、続くリノ・ヴァンチュラのストップモーションであっさり終幕してしまう辺りのセンスは好みで、説明よりも謎を選ぶ感覚は嫌いじゃない。
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