垂直落下式サミング

ザ・パッセージ/ピレネー突破口の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
これの前に『レジェンド・オブ・ウォー』をみていたので、熱い男の対決を期待したのだけど、こちらは敵が普通に悪いやつで残念だった。しかも、マルコム・マクダウェルはナチスが好きすぎてシンボルを履いちゃってるゲス変態。もっこりハーケンクロイツがみられるのは、ピレネー突破口だけ!
アンソニー・クイン、ジェームズ・メイソン、マルコム・マクダウェル、クリストファー・リーといった名優たちをキャストに配し描かれるスリル満点の戦争アクション娯楽作とあるが、出ているメンツがガチA級なのに、タランティーノあたりが好きそうな低俗エクスプロイテーションをしているのが、カルト映画っぽい雰囲気を形作っている要因だと思われる。
ストーリーは、ユダヤ人科学者のジェームズ・メイソンが、ナチス占領下のフランスからスペインへの脱出を計画し、一家全員なんとか逃がしてくれと、山で隠遁生活をしているアンソニー・クインのもとへやって来て、国境越えの手助けを求めてくるというもの。
いい俳優とは顔だけで語る。ああ、なるほどナチスが放っておかないくらいの偉いインテリなんですね、という風貌のジェームズ・メイソン。同じく、このバスク人はきっと過去に何かあってひとり山小屋で暮らしているんでしょうね、という風貌のアンソニー・クイン。顔にストーリーがあるふたり、女子供を伴ってナチスに追われながらの山越えに挑む。キャリアの峠を越えたことで顔に深みが生まれて、こういう変な映画でもそれなりにみせてしまう。昔の役者はすごいですね、はい。
そして何より悪役の強烈キャラクター。ナチス親衛隊を演じるマルコム・マクダウェルのゲスな芝居がやたらと印象に残る。残忍なサディストで、レジスタンスの指をみじん切りにしたかと思ったら、コイツのもっこり鉤十字の中身が少女の貞操を奪おうとし、逃亡者を匿っていると因縁をつけてジプシーを生きたまま火炙りで虐殺する。やりたい放題のザ・卑劣漢!
ちなみに、ここで非業の死をとげる長老ジプシーがクリストファー・リー。敵の親玉クラスにいてもいいだろうに、毅然とした態度で悪党を拒絶し、善人として犠牲になっていくのは、なんだか新鮮な役どころを演じている気がした。
撮影は、実際にピレネー山脈にてロケを敢行。やたらと寒ざむしい風景をみせてくるのがちょっと長くてダルかったが、せっかく頑張って撮ったんだから使いたいよね。ダイヤモンドダストな雪景色の間延びと、短時間ですぐに追い付いてくるスーパーアスリートのマルコム・マクダウェル、見せ場だけ繋いであるやっつけ仕事っぽい編集に関しては、こちらで忖度してあげてもいいかなってくらいには面白かった。
惜しむらくは、主役のアンソニー・クインのキャラクターが最後まで明白でなくて、どうしても感情移入がしにくい。コイツは、積極的に作戦に協力しているのか、それともやはり嫌々やってるのか、曖昧な立ち位置からは動かないままエンディングを迎えてしまう。思わせ振りなだけは消化に悪くていけない。
彼の感情的な動機付けを強調すれば、作戦成功の達成感と悪役を倒した爽快感に、もう一段上のカタルシスを生じさせたかもしれない。