不在

アングスト/不安の不在のレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
3.6
我々が目撃する一連の狂気は、恐らくほとんどが主人公の妄想症によって作り出された光景だ。
殺された被害者達も、彼にとっては自分を酷い目に遭わせた家族の姿に見えていた事だろう。
彼は過酷な家庭環境で育ち、それに対する復讐を完遂させたかったのだ。
一見すると無差別的に獲物を選んでいるように見えるが、実際は自身の家族構成に当て嵌まるモデルケースを探していたのだろう。
カフェで出会う人達も一応は該当する。

そしてその被害者達が住む家には、人が生活している気配がまるで無い。
これは彼が家というものを知らない事の反映だ。
彼は家族で身を寄せ合って暖炉にあたるなどという光景は、恐らく見たこともないのだろう。
だから暖炉には何も置かれていないし、家具すらもないのだ。
これから始まる家族への復讐の舞台にはうってつけだろう。

最後に犬の謎だが、恐らくこれは彼に残っている最後の良心や、自分の中に閉じ込めた悲惨な子供時代の反映なのだと思う。
このわんこだけは、彼にずっと寄り添って犯行を見ていた。
主人公に対して警鐘を鳴らすように鳴き続けながら。
不在

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