デニロ

稲妻のデニロのレビュー・感想・評価

稲妻(1952年製作の映画)
4.0
1952年製作公開。原作林芙美子。脚色田中澄江。監督成瀬巳喜男。

浦辺粂子が、下宿人の女子学生を指してあの娘二食なんだよ。その台詞を覚えていて、なんの作品だったか思い出せなかったんですが、本作でした。彼女、苦学生らしくアルバイトをしながら学校に通っているのだけれど、間代を何か月も貯めてしまってアルバイトの翻訳を増やしたりしている。それで、二食だということなのです。とはいえ、もう限界にきているということは彼女も分かっていて、住み込みの家庭教師の職を探してきて、下宿を出ることになる。

高峰秀子は聞く。住み込みの家庭教師って、大変じゃないの/大変じゃない仕事なんてあるのかしら。/高峰秀子はその間借り人の姿に、こういう風に生きてみたいと思う。書籍を揃え、絵画を飾り、苦学ながらも自分のために知識教養を身に付ける彼女が眩しい。これくらいの贅沢は、と言いながら彼女は母親の形見のレコードプレイヤーにレコード盤を置き針を落とす。結婚のことを聞くと、もちろん、燃えるような恋愛をしてから、と笑う。

高峰秀子には縁談が来ている。それも長姉が政治的な理由から持ち込んだものだ。魂胆は、商売のパートナーになってもらい現有のしょぼい商売から抜け出そうと。縁談相手は両国のパン屋小沢栄太郎。かなりのやり手で、パン屋以外にも温泉旅館やトルコ風呂を出店している。どこかで高峰秀子を見初めたらしいのだが。

高峰秀子にはそれぞれ父親の違う兄と二人の姉がいるが、気の合うのは次姉三浦光子。三浦光子の夫というのは実は長姉のお下がりらしい。でも今は,夫の帰りが少し遅くなるだけで心配。でも、高峰秀子は知っている。多分、帰りが遅くなるのは別の女性と一緒だから。一度街で見かけているのだ。

次姉の夫が交通事故で急死すると、ここからお金の話に転換していきます。

保険金を目当てに三浦光子の夫が囲っていた女中北千枝子が乳飲み子を連れやって来る。保険金がいくら出ているのか調べはついている。この子も彼の子だ。金を出せ。こんな言い方はしていないが、内容はそんなことだ。え、そんなこと調べられる時代だったんだ。プライバシーとか個人情報とか、そんな概念がなかったんだろうか。尤もこの男、保険金の受取人を中北千枝子にしていなかったのはぬかっていたというのか、寿命に自信があったというのか、でも、革命的警戒心は欠如している。

あ、保険金。こんな風に俺もわたしもと群がってくるのです。

で、その淋しきこころの隙を突かれたのか三浦光子までもが小沢栄太郎の悪魔の尻尾に絡めとられてしまいます。懇ろなふたりの会話を耳にして、もう耐えられない。高峰秀子は絶え入る様に叫びます。悪びれる様子もない小沢栄太郎は更に高峰秀子に言い寄るのです。小沢栄太郎がモテているわけではなく金が人を寄せ付けているのです。

ふしだらというのかなんというのか、そんな兄姉を見るにつけ母親浦辺粂子に、あんたがだらしないからよ、と食って掛かる。わたしも生んで欲しくなかった。しあわせだって思ったこともない。/お前が一番いい子だと思っていたけれど、お前が一番悪い子だよ、と泣かせてしまう。そして、今はそんなことないよ、なんか食べに行こう。だって、ひとり暮らしの下宿の隣家には、根上淳と香川京子の兄妹が住んでいて、そう、新しい恋の予感。

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