三隅炎雄

怒霊界エニグマの三隅炎雄のレビュー・感想・評価

怒霊界エニグマ(1988年製作の映画)
3.6
『キャリー』と『パトリック』のイタダキ。障がい者を両親に持つ女子大生が寮の仲間にいじめられた挙げ句昏睡状態に陥るが、生霊となって復讐を始める。あからさまな低予算で完成度はかなり低いが、それでもフルチ独自の世界観は感じ取れる。

寮に貼ってあるロッキーとトップガンのポスターを使って、当時のこれらハリウッド映画が体現する右派イデオロギーを揶揄しているのが目を引く。左派フルチとしては、ヒロインをいじめて昏睡状態にした輩はこういう帝国主義映画を無邪気に楽しめる奴らなのだというわけだろう。特にトップガンをいじったくだりの笑いはどす黒く、思わず顔がひきつる演出だ。

『ロッキー4/炎の友情』『トップガン』の日本公開が1986年、この映画の製作が1987年。美人女子大生に乗り移り、キレイなカラダを手に入れた主人公の自我が肥大化し暴走していく。メインストリームのカルチャーに対する暗い情念が生々しい。

ハリウッドの力信仰、力による解決を否定するのだから、ヒロインの復讐劇もカタルシスを迎えることなく挫折せざるを得ず、映画は冷たい現実に観客を放り出すようにして終わる。残酷なこの結末がいい。
三隅炎雄

三隅炎雄