くりふ

ソルジャーブルーのくりふのレビュー・感想・評価

ソルジャーブルー(1970年製作の映画)
3.5
【荒野のノーパン】

1864年に起きた、騎兵隊によるサンドクリークの虐殺を描く、ニューシネマの流れを汲む、西部劇の転換点ともなったろう作品。

初見は子供のころ、TVでみた記憶があります。虐殺シーンがやっぱり心に残ってしまいましたが、先住民差別はよくない、と理解できた記憶はありません(笑)。子供だから仕方ないものの、本作の本質がそうだよな、とも思います。

虐殺キライ! と嘆く映画で、そう声を上げたことに価値があるけれど、自国の史実を、落ち着いて批評するまでには至っていないですね。先住民たちも結局、そのキライ! を言う為の記号で終わっています。

当時、米軍によるソンミ村虐殺を告発する意図があった、とも言われていますが、先住民の曖昧さを思えばそれもわかりますね。

先住民の奇襲で、一部隊が全滅となるのが物語の始まり。これが曲者。物語内では、やられたからやり返す、という構造にしているんですね。この手は最近の『ゼロ・ダーク・サーティ』もですが、要注意です (笑)。

で、奇襲以降、特異な試練を受ける男女の青春物語となりますが、歴史の俯瞰ではなく、彼らの体感映画としてみると、面白いんですね。

荒野に放り出されての、サバイバルなのに珍道中。荒っぽさも優しさもあるが意地も悪い。これが70年代の始まりか。

優柔不断な騎兵隊員、ピーター・ストラウスにはさほど感心しません。映画自体がヒステリックだから、それを受けたような人物ですね。先住民虐殺に対し、論理や倫理より感情から転がるように見えます。

逆に相手役、キャンディス・バーゲン演じるクレスタは大好き!(笑)「何してるの?」「パンツ脱いでるの。暑いったらありゃしない」…いきなりそれかよ!

確かにあの時代の、ヴィクトリアンもんぺは、荒野で生きるには邪魔そうだ。で、その後ずうっと彼女は…(笑)。

キャンディスさんはエロくないから、エロいことしても微笑ましい。逞しい反面がさつですね。これでキュート入れば最強キャラだけど。先住民風ミニスカ姿になったりもするけど、先住民がモデルではなく、ヒッピーですよね、彼女のキャラは。当時こんな女いたのだろうか?

彼女はあることで先住民と暮らしていた、間を繋ぐ大切な立場ですが、暮らし前後の心境変化をきちんと追わず勿体ない。ここも本作の限界。ちょっと聖女っぽく祭り上げちゃった気もしますね。

虐殺シーンは、当時としてはかなりショッキングでしたが、それでも実際よりは、そうとうマイルドに仕上げているようです。相手を人間だと思っていないわけだし、こういう場に至った人間は、思いつく限りのこと、やるでしょうからね…。

やめろ! と叫ぶホーナスに、隊長の返す一言がおぞましい。虐殺側の心理が冷やり、とこもっています。

そして、すべてが終わった後に流れるのが、軽快なマーチ…。これがじつに気持ち悪いのでした。

そんなこんなで、虐殺は嫌だ、ということは強く喚起させるんですが、なぜそうなったのか?という原因に踏み込むことは避けています。これでも、娯楽映画の枠内でまとめているのでしょう。虐殺だって、映画にすれば背徳的なスペクタクルなんですね (笑)。

でも今でも、ビンラディン殺しだって同じように楽しんでいるわけで、やっぱり映画って窃視者の娯楽だなあ、と改めて思ったりもします。

<2013.4.23記>
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