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夢のチョコレート工場のMASHのレビュー・感想・評価

夢のチョコレート工場(1971年製作の映画)
4.0
『Wonka』公開ということで、せっかくなのでオリジナル版を。日本ではティム・バートンによるリメイクに比べるとそこまで知られてないが、アメリカではクラシックな映画として愛されているそう。実際観るとそれも納得。まさに愛すべき作品だなと思わされる。イマジネーション溢れた映像、魅力的なキャラクター、口ずさみたくなる曲の数々、ダークなユーモア。好きにならないわけがない。

50年以上前の作品という事もあり、夢のチョコレート工場というより映画のセットを案内されている感は否めない。だが、常に観客の好奇心をくすぐってくれる。単にお菓子でいっぱいの世界ではなく、常にクリエイティブな側面を見せてくれるからだ。常に楽しいだけでなく、むしろちょっと怖いとすら思えるような不思議な世界。子供もこういう少し怖い部分があった方が惹かれるのではないだろうか。ダメだとわかっていながらつい触ってみたくなる、そんな世界を見事に構築している。

そして、思っている以上にダークなユーモアが多いというのも面白い。金のチケットを巡る社会現象は今でも通じるような社会風刺が効いているし、工場内に入ってからもウォンカの言うジョークは単なるダジャレもあれば、大人にしか通じないだろというものまで。特に契約書のシーンなんかは、ある意味現代にこそ刺さるジョークだ。そして謎の船のシーン。あれは一体何…?

それらのダークなユーモアをさらに面白くしているのがウォンカ役のジーン・ワイルダーだろう。ウォンカを演じるとなれば、テンションの高い子供のような大人という演技をしそうなもの。彼はそこを捻っていて、興味がないものには疲れたようなとことん冷めた目で見ており、時には残酷にすら見えてくる。この演技がダークなユーモアと非常にマッチしている。ミステリアスで時に恐ろしくもあるけど、なぜだかとても魅力的。まさにウォンカだ。

主人公であるチャーリーもまた素晴らしいキャラクターだ。彼はすこぶるよくできた子供なのだが、子供らしい部分もちゃんと描かれる。金のチケットが手に入らず泣いたり、足を引き摺りながら現れたウォンカに対し困惑したり、触ってはいけないものに触ってしまったり。チャーリーが一人の子供であり完璧な人間ではないからこそ、彼の最後に見せた正直さというものにウォンカ、そして観客も心を打たれるのだ。

そして何より僕がこの映画で気に入ったのは、説明し過ぎていないところだ。ウォンカの過去は具体的に明かされず、チョコレート工場内の出来事にも現実的な理屈は通用しない。ウンパ・ルンパに至っては説明されているようで結局謎の存在。だが、それがいい。想像の世界を具現化するだけでなく、常に観客の想像力を刺激してくるようなミステリアスな魅力がこの映画には溢れているのだ。

そう考えるとウォンカの過去を描く『Wonka』が少し心配にもなってくるのだが…
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