半兵衛

昭和おんな博徒の半兵衛のレビュー・感想・評価

昭和おんな博徒(1972年製作の映画)
3.3
主人公である女侠客の耐えて夫の仇を討つというウェットな役柄と江波杏子のドライなキャラクターが全然噛み合っていない、松方弘樹と渡辺文雄の親分である水島道太郎や悪い渡辺に雇われたアウトロー志賀勝と川谷拓三が途中物語から突然フェードアウトしたり松方の子分遠藤辰雄が空気になるなど登場人物の出番が乱雑だったりと欠点も多く、ストーリーもウェットな女性絡みの部分の比重が多過ぎて娯楽としての任侠映画の流れを塞き止めてしまっていたり、前半丁寧に物語を追っていたのに後半急に駆け足になってバタバタした状態で終わったりする。

それでもこの映画が面白いのは加藤泰ならではのローアングルなどといった演出スタイルが決まりまくっていて、画面に充実した躍動感をもたらしているから。冒頭主人公の江波が敵の一人を殺害する場面は長廻しも相まって凄まじい緊張感がみなぎり息をのみ、そのあとのオープニングタイトルで初めて人を殺した彼女が動揺する姿を延々と映すシーンも彼女の混沌とする心情が切々とにじみ出る。そして冒頭からオープニングまで一切音楽を使わないという大胆すぎる演出によって江波の憔悴する空気感が劇という形を超えて表れてくる。

そしてラスト、真の悪党である山本麟一を殺害する場面も凄い。ローアングルの画面奥で江波と山本が揉み合いになり、それを助ける天知が駆けつけるも敵の刃に刺され画面手前で倒れ、山本を倒した江波が天知の遺体に駆けつける流れをワンカットで処理することで画面内にとてつもないパワーが溢れ圧倒されてしまう。

あと主人公が恋して結ばれる松方弘樹がカッコよく撮られていることで江波が任侠の世界に入っていくことに説得力をもたらす、中でも初登場の場面で暗い夜道で下駄に詰まった雪をふるい落とす姿は照明の塩梅といい体格を大きく見せる演出といいカッコ良すぎて男でも魅了されてしまう。

遠藤辰雄や汐路章が主人公に味方するいい役、あと渡辺文雄が頭の悪いやくざを演じているのもレア。
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