ツクヨミ

ことの次第のツクヨミのレビュー・感想・評価

ことの次第(1981年製作の映画)
2.2
製作中断の現実の果てに見えた映画スタイルの真理。
ヴィム・ヴェンダース監督作品。特集"12ヶ月のシネマリレー"にて鑑賞、個人的にヴェンダース監督が好きなのもありこの特集上映で特に見たかった今作を見に行ってみた。
まずオープニング、いかにも近未来SFっぽい衣装と砂漠を舞台にしたストーリーが唐突に始まる。すると途中で"カット!"の声からこれが映画の撮影なんだとわかる仕様にちょっとニッコリ、またタイトルバックからのワンフレームに製作スタッフが羅列されていてカメラが横移動するとスタッフが羅列が絵画のように固定され徐々にフェードアウトするメタ仕様には流石に笑った。
あとはまあフィルムが途中で切れてしまい、映画製作が事実上ストップしてしまうというリアルな話になっていく。映画製作の話はわりかしいろんな監督が撮っているが、映画監督に固執せず多様なスタッフそれぞれの視点で見ていくスタイルはゴダールの"パッション"に近いかもしれない。だがやはり映画製作がストップし何も進まないやるせなさをダラダラ見せるのは流石にしんどい、それも多様なスタッフに視点がかわるがわるなので感情移入や深みもないのが"パッション"と同じくわりかし苦手だと感じた。
しかし大事なのは今作が当時のヴェンダースの事情の投影で、製作当時ヴェンダースがアメリカでコッポラ製作の下"ハメット"を撮っていたが製作中断になっていた現実をまんま映画にしたことだ。映画製作のリアルをまんま映画にしたのはフェリーニの"8 1/2"みたいだし、後半に映画監督にフォーカスすると映画スタイルの会話になるラストは流石に沁みる。「ストーリーを入れると命が逃げていく」.「人間と人間の対話により映画は作られる」などなどハッとさせられるセリフのオンパレード。まさにリアリズムとストーリーで迷うインディペンデント映画監督の苦悩そのものだし、ヴェンダースの映画スタイルがいかにリアリズムとストーリーどちらを取るか悩んでいるのがみて取れる。かなりメタい仕様ながら映画のスタイルをリアリズムとストーリーの違いで語る良い映画に関する映画だった。あとラストで死がストーリーを完結しうるのを体現したキレの良さも際立ってたなー。まあ今作は好きではないが、これから映画を見る上で大事にしていきたい作品になりそう。
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