ひでやん

蛇の卵のひでやんのレビュー・感想・評価

蛇の卵(1977年製作の映画)
3.7
卵の薄い膜を通して蛇の姿が見えても、その卵を潰す術はなし。

舞台はナチス台頭以前の不況にあえぐドイツ、ベルリン。誰もが過去のこととして知っているナチ極右政権の誕生はやがて来る未来で、その未来を「蛇の卵」というタイトルで表すベルイマンは流石。だが、牧師に赦しを乞うシーン以外にベルイマンらしさはなかった。

脱税容疑でスウェーデンに嫌気のさしたベルイマンが、ドイツを舞台にアメリカ資本で撮った作品という事で、他の作品とは一線を画すのも納得。「いつもなら人物の内面描写にこだわるベルイマンだが、今作はセットにこだわった」とインタビューで言うリヴ・ウルマン。多額の予算を得て1920年代のベルリンを再現。路面電車が走る街の再現は見事。色合いも良かった。

煙草1箱40億マルクって、なんじゃそりゃ!紙幣を手押し車で運び、額面ではなく重さで取引きって、なんじゃそりゃ!そんなハイパーインフレに苦しむ中、キャバレーのショーが娯楽となり、ユダヤ人への差別は徐々にエスカレート。混沌とした社会の中で描く不可解な殺人事件。前半はミステリーだったが、事件の謎を明かす後半でガラリと雰囲気が変わった。

冒頭で映し出される無気力な群衆、その未来を語る終盤はゾッとした。欠点をコントロールして完璧を作れば作るほど、不完全な「人間」から遠ざかっていくんだろうな。
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