レオピン

ガン・ホーのレオピンのレビュー・感想・評価

ガン・ホー(1986年製作の映画)
3.8
オープニングで80年代末の東京に降り立つキートンがまばゆい。

日本人の描写はティファニーのユニオシさんから変わってない。始業前のラジオ体操とかはともかく、昼食のカップラーメンを不気味に見せたり、毎朝川でハチマキ巻いての沐浴はさすがにヤメて。

あのいきなり出てくる研修風景は、かつて地獄の特訓とかの名で管理職研修をうたった自己啓発セミナー(ST)で実際に新聞広告でもよく見かけた。衆目の前で個人をつるし上げ恐怖で支配する営業会社などがいまだに普通にあることだし。なので全否定は出来ない。むしろそういう面も大いにある。パロディとしては優秀と鷹揚に構えよう。

文化論として見るのもいいが、キートンのキャラクターがまずよかった。折々で眉を上げてスピーチをする。これぞアメリカの土着のリーダーという感じ、現場と変わらない目線。ワシントン将軍から変わらない おらが大将。

いつも高校時代のバスケットでの活躍を未だに引き合いに出しながら、古い仲間からはまた出たよと呆れられる。あの第4クォーターの例えはよく分からんが納得力は高い。
何よりもみんなの使い走りみたいな所がいい。サーバントリーダーシップというらしいが、リーダーというのは一段低い所にいて各所のハブになるという。ああいうのが組合でも出世していくのだろう。

とはいえ映画はあまりにステレオタイプに引っ張られ過ぎている為当然最後も弱い。相手を理解し協力しあって一つのものを作り上げるというのが浮ついている。目標15000台を朝までに達成する為に数合わせでエンジンなしの車を並べている。これに重役の山村聰がコロっといく。 
本来ならギリギリまで完璧な車を作って、そこでよし分かった。その意気やよしとなりそうだが。ましてこの頃の日本のエライ人はあんな事したら逆にドヤされるに決まってる。水増ししてどうのっていう数字絶対主義ではなかったはずだと思うが。

カズヒロさーんにゲディ・ワタナベ
社長の甥サイトーにサブ・シモノ 林家ペー師匠ではない
彼女にミミ・ロジャース
仲間のバスターにジョージ・ウェント ウィリーにジョン・タトゥーロが
ポールにクリント・ハワードを発見。奇相、監督の弟。『デッドフォール』で見たぞ


この時代は国際化とか異文化理解という声がしきりに叫ばれ始めた頃。だがまだ東西冷戦もあって本格的なグローバル化は90年代に入ってから。一般国民レベルでの理解が進むのは平成期になってからだ。

映画でも『ブラック・レイン』『ライジング・サン』などの文化摩擦、日本異質論のようなものも隆盛だった。海外赴任する人にとっては優作よりも断然このゲディ・ワタナベに思い入れがあったろう。もっとマトモな映画であればよかったが。

日米貿易摩擦のニュースもしばらく続き、日本車がハンマーでボコボコにされている映像は頻繁に流れていた。日本車は侵略のイメージそのものだったのだ。

この作品は自分たちへも批判的な目を向けている。何も成し遂げていないのにいつも自分だけを優先させる。自分たちだけが最高で相手は劣っているという考え方。それは他国を見下し根拠のない自信に満ちた態度だとキートンに言わせていた。

一方ワタナベにも日本的経営の優位について言わせた後で、なんでそんな国が戦争に負けたんだいとツッコミが入りぐうの音も出なかった。

〇〇スゴイ論とか〇〇ファーストなども根は同じで基本的にはみっともない。そんな空疎な言葉に耳を傾ける前にじゃどうして生産性がよそより低いんですかと真面目に問い返そう。

そもそも明治の近代化や戦後の再近代化と、キャッチアップフェイズではどこの国にもない明らかな強みを見せたこと。それがそのまま停滞の理由につながっているのは明らかだ。

と、あんま大きい話をしても仕方ない。文化論のウソインチキという話もある。山岸俊男は日本人ほど個人主義の国民はいないというのをデータで示した。アメリカの製造業なんかの方がより保護的で年功序列で日本企業の方がより個人プレイで能力主義だとの指摘もある。ハリウッドなどもまさにそうでスタッフは守られている。

長期停滞をもたらしたものは政策の誤りに違いない。その長いトンネルの入り口にあったのが日米構造協議や年次改革要望書。はて?この作品の主人公は日産自動車がモデルのASSAN自動車だったが表記は「圧惨」らしい。なんだかこの漢字が意味深に見えてくるではないか。やめてあげて。


⇒娘が見てるMTV Twisted Sister 「We're Not Gonna Take It」 ヤカマシイー No Twisted Sister!!

⇒エンディング Jimmy Barnes 「Working Class Man」
YouTube Jimmy Barnes - Working Class Man ("Gung Ho" version)

このビデオ見てたらこれフジドラマ『コーチ』だなと。映画のオープニングもとくダネのOPだった「Don't Get Me Wrong」だし。フジテレビ感が強いわー
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