櫻イミト

黒の誘拐の櫻イミトのレビュー・感想・評価

黒の誘拐(1956年製作の映画)
3.5
「死の接吻」(1947)「勇気ある追跡」(1969)などの大御所ヘンリー・ハサウェイ監督による良作ミステリー。原題「23 Paces to Baker Street(ベイカー街まで23歩)」。

病気で視力を失ったアメリカの劇作家フィリップ・ハノン(ヴァン・ジョンソン)は、自身のの戯曲の手直しのためロンドンに来ていた。彼は失意のどん底にあり元秘書ジーン(ヴェラ・マイルズ)との婚約も破棄したのだった。そんな中、立ち寄ったバーで子供の誘拐計画を話している男女の声を耳にしたハノンは警察に伝えに行くが”盲目作家の想像”だと相手にしてくれない。そこで自ら調査を始めるのだが。。。

シャーロック・ホームズも住んでいたミステリーの本場“べイカー街”を舞台に上質なミステリーが繰り広げられる。アメリカ映画だが、ロンドン・ロケの影響かイギリス映画のような上品さが新鮮に感じられて好みだった。

1950年代の曇りがちなベイカー街が全編に渡ってふんだんに映し出されムードは満点。シナリオもミステリーと主人公の成長譚が重ねられたうまい構成。盲目のハンディがあるゆえに聴覚と嗅覚が鋭敏になり、健常者にはできない推理をモノにしていく主人公。反面、ハンディに付け込まれて高所から落下のピンチに陥れられるシーンには冷や冷やさせられた。これらの経験を通して、失意にあった主人公は自信を回復し、命の大切さを思い知ることでフィアンセとの愛を取り戻していく。ヴェラ・マイルズの淑女な雰囲気も好印象だった。

「火星から来たデビルガール」(1954)のパトリシア・ラファンを調べていて見つけた一本。ラファンの出番は少ないものだったが、思わぬ良作と出会えて幸運だった。

※原作は英推理作家フィリップ・マクドナルドの「The Nursemaid Who Disappeared (消えた子守り)」。

■ハンディキャップのある主人公の有名ミステリー映画
ヒッチコック監督「裏窓」(1954)車いす
アルジェント監督「わたしは目撃者」(1970)盲目
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