井出

カニバイシュの井出のネタバレレビュー・内容・結末

カニバイシュ(1988年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

オリヴェイラの映画は初めてだけど、初っ端から引き込まれた。カメラのアングルと絵の構図が考えられて作られていることはよく分かるし、とにかく編集が丁寧だと思った。そういった細かいこと全てができて、ようやくこんな映画ができるんだと気づかされた。
特に今回はオペラ映画ってことで、音楽と構図が素晴らしかった。音楽は舞踏会の音楽なのか、語り部たちの音楽なのか、BGMなのか、分からないが違和感なくつながり、音声の使い方ともあっていた。オペラを映画技術でコントロールして、それはそれで素晴らしいものにしていた。
構図は、基本調和がとれていて、アングルの面白さもあり、人の動きも巧みに捉えられていた。背景に人を踊らせてぼかしたりするところもよかったし、その重層感が貴族文化を描くには丁度あっていた。
そのことで言えばこの映画は、視点の交差がめまぐるしかった。みんながいろいろな点から、いろいろな方へ視線がいき、時折私たちと目があったり、どこを見ているのかわからなかったりしたが、結局はみな愛を志向し、それが交錯する。他にも、貴族そのものの世界の中での視点からの場合やそれを客観視する視点、そして私たち観客の視点など、メタや接近を繰り返し、楽しむことができた。
監督の視点からは、知識やお金を人肉のように貪る人間をカニバリズムのようにたとえられている。人間はさんざん貴族文化や宗教、そのロマンスを楽しみ、遺産を受け継いで、舌に合わなくなった途端、法律と科学を崇拝し、その肉を食らう。そうやって生きながらえてきたんだ、というおかしさ。

今は誰に音楽を奏でられているんだろうね。誰の肉を食っているんだろう。
井出

井出