開明獣

ピアノの森の開明獣のレビュー・感想・評価

ピアノの森(2007年製作の映画)
5.0
ショパン・コンクール。ピアノのみのコンペティションで、5年に1度しか開催されず、優勝者が出ないこともある。日本人の優勝者はまだいない。

一ノ瀬海は、貧困地区で母親と暮らす少年。友達は、森の中でみつけたピアノだけ。貧しさゆえにピアノは独学。

阿字野壮介は、幻の名ピアニスト。交通事故で婚約者と左手の自由を失ってしまい、人生に意義を見失ったまま音楽教師をしている。

全く違った境遇の二人が邂逅した時、運命の扉は開き、一ノ瀬海は、最難関コンクールであるショパン・コンクールに挑戦する。

本作では、一ノ瀬海の小学校時代までが描かれている。それはそれで素晴らしいが、なんといっても、原作漫画が卓越している。アニメ版も別にあるが、残念ながらクオリティがあまり高くなく、漫画原作が圧倒的な存在感を示している。

紙面から音楽が聴こえてくるようだとは、まさにこのことで、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」も、この「ピアノの森」の前では霞んでしまう。

とても透明で爽やかで、暑苦しくない作品だが、読了後の胸に迫る感動は筆舌に尽くしがたい。音楽好きな方だけではなく、物語が好きな人たちすべてにお薦めしたいのが本作の原作。

心疲れた時、惑う時、立ち止まってしまう時、カンフル剤として今も読んでいる。この作品が多くの人を惹きつけてやまないのは、人は皆、人生というピアノを弾き続けているからだろうか。

今日もどこかでピアノの音が聴こえてくる。
開明獣

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