和桜

ナチスの犬の和桜のレビュー・感想・評価

ナチスの犬(2012年製作の映画)
3.9
ナチス占領下のオランダで収容所移送に携わりながら、陰で千人近くの子供達を救ったウォルター・ススキンド。
ドイツ系ユダヤ人である彼は家族のため移送作業の主任にまで上り詰めるが、収容所だと思っていた場所で行われている虐殺に気づき書類の書き換えを始める。どうやっても全員は救えない選択の重みに苦しみ、同胞から裏切り者と蔑まれ続けた記録でもある。

ホロコーストにおいてナチとユダヤ人のトップが手を結び、まず貧困層のユダヤ人を殲滅していった歴史は確かにあって、ここでもユダヤ人評議会としてその存在は示されてる。
ユダヤ人自身が収容所へ送る人間を選別していた事実、収容所でユダヤ人が行った一部の残虐な行為。ナチスに協力した彼らを挙げて現代でも責任転嫁が論じられる状況に対して、このオランダ映画は当時の全容を映しながら両側を示した貴重な作品。正論を並べるユダヤ人評議会、協力者を装うススキンド、彼に友情を抱き裏切られる親衛隊大尉とかなり中立的に描いた作品でもある。

この映画が他のユダヤ人を救った英雄達と違うのは、彼自身がユダヤ人であったこと。そして救済者であり加害者でもあったと言うこと。彼の選択によって亡くなった人間は確実にいるし、これは彼が役割を放棄したところで変わらなかったとしても事実として存在する。だから話としてエンタメ性も薄く、英雄のような終わり方もしない。ただ、彼を悪人や裏切り者だと言えるのか?と問い掛けてくる。
だからこそ生き残った子供達が残そうとした『suskind』という実名に対して、『ナチスの犬』と邦題付けてしまう無神経さは怒りを通り越して悲しくなる。これを付けた人は自分が同じ事をしてるって自覚がないんだろうか。邦題は擁護できないけど、こうした人物の名前や功績は語り継いで言って欲しい。
そして多くのユダヤ人を救った英雄としてシンドラーや杉原千畝など沢山の名前が残ってるけど、それ以上の市民や聖職者が名前は残らずとも匿っていた事実も歴史に刻み続ける必要がある。
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