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夢千代日記のodyssのレビュー・感想・評価

夢千代日記(1985年製作の映画)
3.0
【吉永色に合わせた女優たちの競演】

30年以上前の映画です。
吉永小百合主演で、ほかに小川真由美、名取裕子、田中好子、斉藤絵里、樹木希林など何人もの女優が出ています。

時代は昭和60年。
ヒロイン(吉永)は兵庫県北部の温泉町で芸者をとりしきっており、若い芸者たちからは「おかあさん」と呼ばれていますが、自分も芸者であり、この主の役柄に相応しい「おかみさん」的な重みが感じられません。

また、彼女は原爆症をわずらっており、この作品の冒頭では医師から余命半年と診断されているのですが、そういう苦しみや末期の悲惨な症状などもあまり出ていません。

その意味では吉永小百合にありがちな綺麗事の映画と批判する材料にはたしかに事欠かないのですが、もともと吉永は「髪振り乱しての熱演」的な女優ではないし、そういう味の映画だと考えれば、そんなに悪くないと思いました。

何よりこの映画では多数の女優が競い合っています。そしてここが肝心なのですが、それが吉永の対極を行くような「熱演」ではなく、あくまで吉永の色に合わせた形での競演になっている。その意味ではこれは多数の女優が出ているにもかかわらず、あくまで吉永小百合の映画なんですよね。

温泉町なのでストリップショウも出てきて、彼女たちの全裸シーンもあるし、老画家の最後のモデルにと熱望されてヌードになる若い芸者も、男に裏切られて死のうとする田中好子も、正妻が子を生めない体だから代わりに赤ん坊を産んでくれと頼まれる名取裕子も、描き方によっては悲惨で深刻なエピソードになりそうなのに、どこか明るくて、悪く言えば学芸会的だけれど、良く言えば品の良さを失わずに「美しい夢」を描いて見せている。

小川真由美は本作品に出ている中では、旅役者の女座長という役で芸者ではないから吉永の配下にはないわけで、その分、小川らしい味が出ていますが、それでもあまり崩れた感じがしない。

そういう意味ではいちばん独自性を発揮しているのは、先頃亡くなった樹木希林でしょう。彼女の喜劇性は、さすがに吉永色に染まってはいません。

この映画は昭和60年の作品。昭和60年と言えば1985年で、そろそろバブルも来そうな時代なのに、舞台が兵庫県北部の小さな温泉町であることもあってか、まるで昭和30年代から40年代くらいの映画に思えます。そして、だからダメだ、と言う気になれないところが、この映画の色を決めている吉永小百合の偉大さなのではないでしょうか。
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