津軽系こけし

山椒大夫の津軽系こけしのレビュー・感想・評価

山椒大夫(1954年製作の映画)
4.5
善の怨念


【溝口健二監督作品初観賞】
ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を授かり、日本映画黄金期の無類ぶりを象徴する作品(と言われているらしい)。
最近ようやく50年代日本映画に手を出した私からすると具体的にどこがそこまで評価されているのか測りかねるが、この鮮烈な物語は残酷さと封建制度に対する反逆意思をもって私の心を鷲掴みにしてくれた。

【戦後日本の民主主義化の投影】
原作は、中世の芸能たる説教節の「五説経」と呼ばれた演目の一つ「さんせう太夫」を原話として森鴎外が執筆。

調べた範囲でのことによると元の説教節は残虐性の濃ゆい内容らしく、厨子王が山椒大夫を苛烈に痛めつける描写もあるらしい。それに対して森鴎外は、この物語を自己流に解釈した。厨子王による復讐や残酷な描写よりも、母との再会に軸を据えている。溝口健二もまた、鴎外と同じように彼なりの解釈を作品に投影している。

こちらの「山椒大夫」は、厨子王が売られてからというもの、見るのが辛くなるほど残酷な展開がひっきりなしである。ただし、厨子王による復讐は山椒大夫の追放という形で簡易に締め括られる。年代から察して溝口健二が戦後日本の民主主義への移行を示唆するための内容なのだと思う。山椒大夫を軸に据えた封建制度に対する強烈な怨念と、被差別人の解放という筋書きは、全時代日本から民主主義日本への移行そのもののよう。

【日本家屋の美しさ】
しかしながら、筋書きと描写の残虐さよりも、やはり風景の切り取る力にも魅了されてしまう。小津安二郎といい、この時代の日本の監督は日本家屋の構造的な美しさを根本から理解している。今作においても関白へ謁見にかかるシーンの庭園の魅力は悪夢的である。
そして長撮りが控えめなところも好印象。昨今の映画のような見てくれを求めた長撮りからは完全に逸脱した、気づかないような長撮り。巧みな手腕と美しさに対する敬意が、2021年の映像媒体からもびりびり伝わる。

【まとめ】
すごい映画だが、私の感性はそこまで貫かれなかった。私は役者の表情に迫るような単純な画面が好きなので、この映画のいつも俯瞰するような視点はなんだか心地よくなかった。だが、これは見ねばなるまい。
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