たにたに

山椒大夫のたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

山椒大夫(1954年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

【身を投げる思い】2023年4本目

森鴎外の小説原作。
ベネチア国際映画祭、銀獅子賞。

「安寿〜〜、厨子王〜〜」
鳴り響く、母の、子を想う悲痛な叫び。

平安時代、流罪になった父親を追って旅に出た母と子2人。親切心を装ったおばさんに騙されて、母は佐渡に遊女として、子2人は丹後の山椒大夫の奴隷として売られてしまう。

この山椒大夫という男が、人を人として見ていない卑劣な男なのであるが、お偉いさんの懐に入るのが上手いやり手の男でもある。

そこから10年間、家畜の如く働かされた安寿と厨子王の心の内にも変化があり、特に兄である厨子王は山椒大夫のような冷酷な性格に満ちて、優しさや両親のことなど忘れ去ろうとしているようである。
対して、安寿はそんな変わってしまった兄を見てひどく悲しみに果てるのである。


かつて彼らの父親は離れ離れになる子供たちに説いた。
「人は等しくこの世に生まれてきた。幸せに隔てがあってよいはずがない。」と。
まさに山椒大夫のしていることは人を支配し、自己の幸せしか考えていない、ろくでなしなのである。

彼の元から千載一遇の逃げるチャンスを得た2人だが、厨子王の逃亡に希望を込め、安寿は残ることを決意。しかし、彼女は追っ手を惑わせるために入水し、命を絶つのであった。

父親からの言葉と、お守りでもらった厨子を胸に、厨子王は自力で貴族の仲間入りを果たし、家族との再会を夢見た。
山椒大夫の元にいる奴隷たちを解放。

しかし、安寿も父親も既にこの世にはいないことを知る。悲しみに暮れながら彼は身分を捨て、佐渡にいる母親を訪ねる。そこには脚がダメになり、目も見えなく、ただ自分の子の名を独り言のように呟く見るに耐えない母親の姿があった。
再開し抱き合う2人が、見事な海岸のロケーションの引きの画で終わりを告げる。


厨子王は父親の言葉を忘れず、身分を捨ててまで貫いた態度に我々は心を打たれるのである。彼の人生が幸せだっとは思わない。しかし、彼のその行動が、公開当時の終戦間もない人類への教訓として確かに響いたに違いない。

もちろん、安寿の行動には賛同できないのだけれど、やはり、犠牲のもとにしか幸せは訪れないのかと思わされる悲しき現実も突きつけられるのである。
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