厨子王と安寿。
母と別れ、人買いに売られた悲劇の兄妹。
そもそも、この話の主人公は厨子王なのだ。なんでタイトルは『山椒大夫』って悪役の名前なんだろ?
やはり山椒大夫という“大きな悪”の存在こそが、この物語の背骨ということなんだろうか。
「己を責めても人に情けをかけよ」
それが父の教えだった。
その言葉を信じて生きてきた厨子王が、
「この世に神も仏もない。」と厭世的になり、自らも労働者に焼きごてを押してしまうまでに堕ちてしまった、「山椒大夫」統治下の地獄の荘園。
安寿が犠牲になり、その地獄から抜け出し、丹後の国の守となった厨子王が、山椒大夫に逆襲し、母と涙の再会を果たすまで。
安寿の入水シーンは、長谷川等伯の国宝『松林図屏風』のようだなと思った。美しかった。
佐渡の海のラストシーンは言わずもがな。
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『山椒大夫』はヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したが、なんと同じ年、黒澤明の『七人の侍』も銀獅子賞を受賞している。
映画界では、ハリウッドは黒澤推し、ヨーロッパは溝口推し、との傾向があるらしい。
さらにこの前年、1953年公開の小津安二郎『東京物語』の存在もみると、この頃の日本映画が世界に与えたインパクトに、嬉しい気持ちになる。
公開:1954年
監督:溝口健二