せいか

ブラック・ビューティー/黒馬物語のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

12/10、Amazonビデオにて動画レンタル。字幕版。
原作小説は未読。
とにかく馬が動いてるのが観たい気分だったので観たという動機なので中身も何も知らない状態で観たのだが、在る黒馬の誕生から老境までをその馬の視点から描いたもので、その馬の語りによって話は進む。ほかの生き物で言葉を話すのは他には人間のみ。とはいえ、動物アテレコ系なのに変わりはなく、そういうのエゴ臭さが一気に上昇するので苦手なので、開始早々後悔はした。
時代は馬車などがまだまだ現役だった19世紀末のイギリス。最初の穏やかな生活ができる家庭の下での牧歌的な楽園から一転、人間たちの間を渡り歩く運命となってからはひたすら直接の飼い主が最悪でもそうじゃなくても荒波に揉まれ続け、人のごみごみした営みに巻き込まれて疲弊していく様子が描かれる。仲間たちも散り散りになり、特に親しかった馬はやっと再会できたと思ったら骨と皮ばかりで死体となったのを見送るしかできずなど、飛散も悲惨である。そして人間社会の中に置かれながらも道具としてそこに位置づけられる馬たちのことを人間たちはろくに顧みない(作中でも描かれるように、貧しい人間たち、辻馬車の御者が一人の人間であることが顧みられないように)。
ラストは、もうそのまま死ぬしかないほどにくたびれた状態で老衰していたところで最初の飼い主の所で馬の世話をする見習いとして働き、当時は少年だったが今はもう父親になるほどにも育っていた男と再会し、彼に気づいてもらえるようにアピールをして無事に認められて再び田舎で彼のもとで余生を過ごすという救いはあるけれど、微睡む馬が、一番はじめの時代の美しかった思い出を食みながら、仲間たちと過ごした日々を誰にも奪えはしないって語って終わるわけで、すごくつらかった。この作品通して何が一番語られてるかって、人間とその社会がいかに最悪かというものだと思う。そしてそれはそれを日々弛まず生み出してる人間自身にも牙を向き続けているのだけれども、それをさらに一切の自由意志が尊重されず、犬猫などと比べるとさらに道具として扱われることになる馬の視点に置くことで表現しているのが本当に最高に最悪って感じで、どうか人間を赦さないでくれという気持ちになりましたって感じである。ほんの少しの優しさでいろんなものがこの馬が夢見たような牧歌的な世界につながるのに、人間の世界には(特に街のシーンでそれが顕著だったが)その余裕がない。心の狭さ、そうならざるを得ないような世界の苦しさ。享楽の下に押しつぶされていくものたち。つらい。

ラストも、元少年に、最初はみすぼらしい馬だと思われてそのまま立ち去られかけてたり、その馬が彼にとって大事な馬だという前提がなければ、そのまま可哀想なその目の前の馬はもはや一瞥もせずに背中を向けてもいい(だっていちいち慈善ができる余裕はないからということだろう)という意識がそこにあるからこそのそれだと思うので、そうやって見て見ぬふりをされたものたちという数多の存在も意識せざるを得ない作りで、最後までとにかくつらい。そのうえで既述のとおり、主人公の馬自身も、やっと手に入れた安寧の中で寄り添うのは過去のきらめきだったり。
根暗ワイ社会への厭世観が強化されてしまう!!!!という話だった。

つまるところ本作は馬の目を通して人間社会のどうしようもなさと一抹の希望とそれをさらに塗りつぶすその社会の醜さとを描いたものだったと思う。人間を赦すな。人間を赦すな!!!!!


それはさておき、当初の目的としていたところの動く馬が観たいというのは最初から最後まであらゆる角度およびシチュエーションで堪能できるものだった。すばらしい。

あと、登場する馬たち(とその他の動物たち)も人間のエゴの表れである映画製作というものに忠実に付き合ってくれていて、始終賢さ100って感じであった(撮るの大変だっただろうから関係者各位もすごいと思いますが)。馬はいいぞ。

人間は赦すな。
せいか

せいか