不在

コントラクト・キラーの不在のレビュー・感想・評価

コントラクト・キラー(1990年製作の映画)
4.6
カウリスマキがロベール・ブレッソンの影響を受けているのは明らかだが、今作でもそれを強く感じる。
ブレッソンは自身の作品を、映画ではなくシネマトグラフと呼称した。
演者から感情を排し、劇伴は使わずに役者が立てる音だけを強調する。
作品の中の出来事を冷静に捉えさせる為に、観客をあえて突き放すのが彼の作品の特徴だ。
しかし映画を徹底的に異化して出来上がるシネマトグラフは、一見真逆に思える不条理コメディやシュールなギャグと実はそう遠くない事に、カウリスマキは気付いていたのだろう。
実際ブレッソンの『田舎司祭の日記』は、少し手を加えれば、原型を留めつつそういったコメディに作り変える事が出来る。
逆に言えば、ブレッソンがこの映画を『ラルジャン』のように撮る事も可能だ。
要は演出次第なのだ。

カウリスマキは、ブレッソンのシネマトグラフをより映画に近付けた。
劇伴をつけたり、役者に少しだけ感情を入れる事によって、異化と同化を同時に成立させたのだ。
だからこそ我々は主人公にすんなり感情移入出来るし、映画の出来事がまさに現実にも起きているという事実を冷静に受け止める事も出来る。
彼の映画から受ける、ヘンテコで作り物っぽいけど時々妙にリアルで愛おしいという印象は、まさにそこから来ているのだ。
ブレッソンのファンにこそ、是非カウリスマキを。
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