こなつ

コントラクト・キラーのこなつのレビュー・感想・評価

コントラクト・キラー(1990年製作の映画)
4.0
アキ・カウリスマキ監督によるサスペンスコメディ。労働者三部作の後、舞台を国外に移した最初の作品。カウリスマキ監督はフィンランドを舞台にした労働者の庶民だけを描いているのかと思っていたら、幾つかフィンランド以外の国の作品を経て、名作「浮き雲」に繋がっているということを知る。社会の片隅で生きる者達に光を当てる作風は変わらないが、サスペンス調だけどユーモラスたっぷりな物語は非常にわかり易く面白かった。

ロンドンの水道局で15年働くフランス人のアンリ(ジャン=ピエール・レオ)が、突然解雇された。どう見ても他の職員より真面目に働いていたのに、外国籍というだけでリストラの対象になったアンリ。家族も友人も恋人もいない孤独な彼は、自殺を試みるが失敗する。思い余って新聞広告で知った殺し屋コントラクトキラーに自分の殺害を依頼した。しかし、その夜、バーで出会った花売り娘マーガレットに恋をしてしまい、突然死ぬのが嫌になってしまった。

自分の殺害の契約をキャンセル出来ないまま、たまたま町でチンピラが宝石泥棒をしているところに出くわし、罪を擦り付けられて警察にまで追われる不運な男アンリ。行方をくらましたアンリを必死で追うコントラクトキラー。逃げるアンリ、追う殺し屋。フィンランドだけではない、他国の労働者達の厳しい現実がカウリスマキの独特なユーモアで描かれていてとても面白い。

アンリを演じたジャン=ピエール・レオは、「大人は判ってくれない」で鮮烈なデビューを飾り、数々の作品に出ているフランスの名優だが、この作品では仏頂面で寡黙で薄幸な男を見事に演じていて、すっかりカウリスマキ俳優に成りきっている。全編英語でイギリスで撮られているが、フィンランドのカウリスマキ作品そのものだった。殺し屋を演じたイギリスの俳優ケネス・コリーも渋くてハードボイルドなスタイルが魅力的で、離婚して可愛い娘がいたり、癌を患って余命幾ばくもなかったりとそのバックグラウンドがしっかり描かれているところも非常に興味深い。

「労働者階級に祖国なんて必要ない」カウリスマキらしい名言が炸裂する。理不尽に解雇されても抗議することもなく淡々と従ってしまう哀れな男が、恋に落ちて突然生きることに前向きになる姿が何とも微笑ましく、素敵な作品だった。

ボブおじさんのレビューでこの作品を知りました。ご紹介、有難うございました。
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