猫脳髄

ナイト・オブ・ザ・コメットの猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.7
トム・エバーハートといえば、本作と同年公開の「ソウル・サバイバー」が名作の誉れ高い(残念ながら未見)が、興行成績をみると、本作は予算比20倍超をたたき出したブロックバスターである。彗星(comet)の影響で大半の人びとが消滅し、さらにはゾンビ(※1)まで跋扈するポスト・アポカリプスのロサンゼルスを、ネアカのハイティーン姉妹がサバイヴする痛快な作品に仕上がった。

姉妹役のキャサリン・メアリー・スチュワートとケリー・マロニー(※2)のキャラクター設定により、ポスト・アポカリプスやゾンビモノにまつわるペシミズムを回避し、無人化した都市をふたりがティーンらしい前向きさで状況に立ち向かう(※3)。

見逃せないのは「男性の助けを必要とする女性」という従来のステレオタイプを棄却した点である。主人公の姉妹やストーリーに絡む女性科学者(メアリー・ウォロノフ)たちは、男性が選択する功利主義的な生存戦略を否定し、自由を謳歌する。そこが本作の痛快さの所在であり、他に類を見ない作品となった所以だろう。

ロメロへのオマージュで姉妹は無人のショッピングモールを訪れ、シンディ・ローパー"Girls Just Want to Have Fun"をBGMにノリノリでファッションショーを楽しむさまは、ロメロが描いた資本主義のデカダンスではなく、あくまでティーンのサイコーなお楽しみという極めて無邪気なものである。ハイティーンの全能感って何なのかとは思うが、脅威を蹴散らす陽気なふたりに魅了されること請け合いの名作である。

※1 正確には「生ける死者」ではなく、消滅は回避できたものの彗星の影響が進行している生存者である。後半ではゾンビではなく、行動様式が「吸血鬼」のようにも描写される
※2 小柄で軽快、コミカルな表情が実に気に入った。彼女が軽妙なステップを踏む足だけのショットが2回盛り込まれるが、ステップだけでキャラクターを表現できているのが見事である
※3 ポスト・アポカリプスの無人街を映し出したダニー・ボイル「28日後…」(2002)と比較できるだろう
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