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不倫時間のakrutmのレビュー・感想・評価

不倫時間(2007年製作の映画)
3.6
『SHE SAID/シー・セッド』のマリア・シュラーダーの監督長編デビュー作。イスラエルの作家ゼルヤ・シャレブの小説『Love Life』を原作として、エルサレムで順風満帆な人生を送っている若き女性ヤーラが両親の友人である年上の男性アリエに惹かれてしまう姿を描いている。

世間での評価は思わしくないが、秀作とは言わないまでも、完成度は高い作品である。低評価の原因のひとつとして、邦題によるミスリーディングがあるだろう。確かに二人の関係は不倫なのだが、一般的に「不倫」という言葉からイメージするような相思相愛の関係ではない。女性ヤーラのほうは確かにアリエを追いかけるのだが、アリエは乱暴に肉体関係を結ぶだけで、アリエを恋愛の対象とは見ていない。また、徹底的に感情描写を排した描き方によって、自宅で初めて会っただけでヤーラがなぜその男性に熱中してしまうのかもわからないのも低評価の一因だろう。小説は主人公の心情描写が中心であるらしく、海外ではそこが低評価につながっている。

でも、本映画で描かれているのは、男性への一目惚れを通じて、ヤーラが自分らしい人生を取り戻す過程である。優しい夫と暮らし、大学では助手になれるかもしれないという他人が羨むような人生を送っているにも関わらず、本人はそのような現状にどこか不満を持っている様子が、夫とのじゃれ合いや教授とのやり取りなどの前半のシーンでさりげなく暗示される。両親とアリエが初めて登場するシーンから伏線が張られているのでよく考えると想像できるのだが、話が進むにつれて、ヤーラの両親とアリエの、単なる友人とは言えない過去の関係が暴かれていくことで、ヤーラや両親、アリエの行動が腑に落ちるのである。結局、似た者どうしということなのだ。そして、そのことを自覚した上で、ヤーラは自分らしい人生を歩もうと決意するのである。

・全体的に焦点が合っていないような映像なので、眼がちょっと疲れてしまった。
・ヤーラがアルバイトで観光ガイドをしているシーンで、キリストが処刑されたゴルゴダの丘があったとされる聖墳墓教会が出てくる。
・ヤーラ夫妻の友人シーラを演じている女優さんがどこか見たことあるなあと思っていたが、『シリアの花嫁』の花嫁役のクララ・フーリ。
・原作の著者ゼルヤ・シャレブが図書館の司書としてカメオ出演している。
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