【いや、そう言われましても】
原題が『I WALKED WITH A ZOMBIE』なので、邦題はまんま。DVDだと最後に!が付いて、より高らかに宣言しています。
…宣言されてもなあ、と思いますが、実はクラシック・ホラーの佳作。見直して感心。
1943年作、RKOのリュートン・ホラーと呼ばれる一篇。フランケンやドラキュラなど、キャラクタ主体だったユニバーサル・ホラーと違い、キャラクタが出ないのにコワイ!という怪異な空気感が売り。
映画史上初ゾンビ、までは遡らないのですが、舞台はカリブで、ブードウー教が“こしらえる”ゾンビが登場します。これ、劇場の暗闇で見たら今でもコワイ気がする、ずる、ずる、と引きずる足音がまず、近付いてくるのですが…ロメロゾンビのルーツ、とは言えるのかも。
で、ゾンビの“中味”を曖昧にしているところが肝で、またコワイのですが…
一方、本作は美しいのですよね!フィルムの保存がよいものなら、モノクロ画面が実に映えるでしょう。『キャット・ピープル』の監督でもある、ジャック・ターナーの美意識が静かに滲む。現地ロケはしていないでしょうが、異境感もマル。
はじめは、カリブの南風でドレスの裾をなびかせ歩く、美人妻…と惹かせ、しかし病から意志をなくし、徘徊していることがわかるのですが…彼女はゾンビなのか?と観客を誘っていきます。
その美人妻を診るため、島にやってきた看護士さんがヒロインですが、彼女も堅実美人。当然“巻き込まれ型”となりますが、戦時中なのでムダなことはしません(笑)。堅実に“足を使って”事件を追っていくことが、タイトルに結実します。
終わってみると、このタイトルが実に切なく、美しく、響くことになるのです。
ヒロインの恋愛事情が説明的なのと、恐らくオトナの事情で、終盤が駆け込み乗車的エンディングとなるのが残念。
でも、全体の魅力からすると瑕疵としては小さい。リュートン・ホラーに対する黒沢清監督のコメント、「映画ファンは、もう一度ここから学び直さねばならない」に、納得してしまいました。
<2019.7.23記>