ゾンビ映画かと思ったら、全然違った。いつゾンビが出てくるのかと今か今かと待ちわびていたら、そもそものゾンビというものの定義を問う映画だった。単純に好き嫌いとかではなく、凄い映画だと思う。
確かに導入こそホラーのようだが、実はカリブ海の島における被支配層である黒人と支配層である白人の文化的対立も内包されたドラマでもある。そして最終的にはメロドラマっていう。
とにかく、ゾンビというモチーフをこんな風に扱うのが凄い。襲い来る恐ろしい存在ではなく、あくまでもメロドラマの道具立てとしてのゾンビなのね。
ゾンビ化した兄嫁を貰いにやってくる黒人の異様なしつこさを見ると、実は語られていない隠された物語(黒人と白人の間での何かしらのドラマ)があったのではないか、と、深読みしてしまう。
68分という短い尺の中にあって、メロドラマへの転換に無理矢理感もあるっちゃある。しかし、クライマックスの、両手を伸ばして追いかけてくる黒人ゾンビと、そこから逃れて入水する二人のカットの凄まじさ。泣きそうになった。あれを見てしまうと、この映画は只者ではないと理解せざるを得ない。
あと、全体的に島の情景描写が凄く丁寧で美しい。単なる紋切り型の南国の楽園という感じではなく、割と泥臭い情緒も感じられ、単なるB級映画のレベルを超越している。