くもすけ

これがピーター・セラーズだ!/艶笑・パリ武装娼館/マダム・グルニエのパリ解放大作戦のくもすけのレビュー・感想・評価

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気楽に見られる反ナチコメディ。パリ老舗の娼館が占領によって陰謀の中心になってしまう。ベアトリス・ロマンが活躍するが、それ以上にすごいのがピーター・セラーズ6役!総統、ゲシュタポ長官、フランス人将軍、英国人少佐、日本人皇太子、フランス大統領、あとナレーター。
色んな方法でナチが死んでいく。跳ね上げ式の特注ベッドがナチ高官を飲み込み、東部戦線に配属される予定の将校たちが腹をこわす。
ロンドン亡命政府から任官された女将グルニエは、尼僧衣から黒ストッキングをちらつかせて上陸作戦阻止を企むナチを足止めする。皇太子がそこで何をやってるのか不明だが日本人がロリコンなのは周知の事実。合言葉は「近いうちに」

監督はボールティング兄弟、脚本はツイステッドナーヴのレオ・マークス。この人1920年生で大戦中は暗号部隊に所属していた。ブレッチリー・パークで勤務後、ベイカーストリートに新設されたSOEに配属され、欧州被占領地域の暗号解読に携わった。幼い頃ポーの黄金虫を読んで暗号に目覚めたらしく、イギリスのゲーム作戦の失態を前にポエムコードの脆弱性を指摘して撹乱用のコードを作ったり、ワンタイムパッドを考案したりした。
自作の詩をコードに使い潜入中のスパイヴィオレット・ザボに使わせたところ彼女は逮捕されて処刑されてしまう。この詩は彼女に取材した映画で使われて有名になってる。
戦後は作家になり映画のシナリオもいくつか書いて、血を吸うカメラで酷評される。のちスコセッシがこれを再評価し最後の誘惑のサタン役でレオを配役したと。

娼婦たちのモデルに婦人補助空軍の女性スパイたちを念頭においたのではないか。SOEの女性スパイはたくさんいるがそのうちの一人ノーラ・イナヤット・カーンと懇意の中だったらしい。ノーラはモスクワ生で父はスーフィーの指導者、母はアメリカ人。1914年フランスに移り住み、大学では児童心理学を学んだ。対戦が始まるとイギリスに亡命し、婦人補助空軍に参加。無線技士として働き、家族とともに逃げ出したヴィシーフランスに今度はSOEのスパイとして潜入する。技士として有能だったが、詩作、児童向け物語、ハープ、ピアノなどを得意としたのからもわかるようにスパイとしては繊細すぎたかもしれない。暗号名はマドレーヌ。現地でも好成績を収めるが1943/6密告で一斉操作にあい逮捕される。脱走を企てるが捕まり、10ヶ月間手足に枷をはめた状態で勾留された後、1944/11ダッハウに送られた翌日銃殺された。彼女もたくさんのフィクションの題材になってる。