宇尾地米人

狼たちの処刑台の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

狼たちの処刑台(2009年製作の映画)
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元英国海兵隊の老主人公を演じるマイケル・ケインの演技が評価され、イギリスで話題となった映画です。原題は"HARRY BROWN"ということで、主人公の名前です。治安の悪い公共団地で一人暮らししています。長いこと連れ添った奥さんはもう具合が悪くて入院しています。寝たきり状態で、会いに行っても自分のことが分からないくらい。そしてある日、危篤の報せがありました。そこでギャング団が屯しているルートを避けて遠回りしたために、奥さんの最期を看取れなかった。あぁ残念だ。そう悲観していると、なんと最後の友達だったチェス仲間まで、ギャングに殺された。まぁ惨い。この肝心な時に、警察は当てにならないことも分かってくる。独りになって、なんだかツラくなってくる。不良連中がいつものように歩道を占拠してイキがっている。その様子を、マイケル・ケインは団地からジッと見ていた。そして考えて考えた。ある夜、売人と取引するために出かけました。銃を手に入れるためですね。いかにも怖そうな売人たちから、拳銃を売ってもらいます。さあどうするか。闘うんですね。闘うしかないんですね。人間のクズたちに怒り心頭なんですね。

ということで、この映画はブライアン・ガーフィールドとか、マイケル・ウィナーとか、チャールズ・ブロンソンとか、クリント・イーストウッドとか、そういう系統です。私刑、復讐、自警もの。警察は頼れないから、自分でやるしかない。現実では、私刑や過剰防衛は処罰されてしまうので、日々悶々とする人のためにこういった作品が製作されます。他人に迷惑ばかりかけてる連中に報いを受けさせる。同時に、この暴力の続けざまがいかに怖いか、哀しいものかがあります。ただの暴力賛美ではないですね。暴力や暴言、嫌がらせで人を困らせることはいけないよという、映画教訓です。善良な市民の生活や権利は守られなければなりませんよという訴えです。こういうところが大事ですね。

この映画で、好きな場面は、トンネルで銃撃戦を始めて、逃げた不良を追いかけるところです。運河沿いの歩道まで走って追いかけますが、年齢もあって、倒れてしまいます。アメリカのアクションものとは違うなと思いました。主人公が老いているところですね。殺そうにも追い詰められない。体力の限界も近くてすぐ息があがる。そういうところ。若者たちは自分らの快楽の為に誰かを困らせて陥れてる。それを見て年寄りが居場所を失い失望していくところ。マイケル・ケインはこのとき76歳。よう頑張っています。男の喪失感、老練の鬼気を見せました。ということで、この映画は『キック・アス』の監督と製作者が携わっているからといってただの暴力アクションものと思ったら大間違い。人心が荒れて、生活が荒らされていく悲哀があるところが良かった。老主人公の生活や闘いがどんな完結を見せるか。イギリス製なだけあって残酷ながらもヒューマンタッチを疎かにしていない見事な一作でした。
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