「牛泥棒」1942(昭和17年)
主演のヘンリー・フォンダが「お気に入りの作品」と呼びクリント・イーストウッドやサミュエル・フラーが愛した西部劇。日本未公開。
「法とは単なる言葉ではなくそれを実行する人々でもない。法とは正義や善悪についての人間の叡智、人間の良心そのものだ。良心がなければ文明など育たない。神に触れられるのは良心を通じてのみだ。我々から良心を奪ったら何も残らない」
流れ者ギル(ヘンリー・フォンダ)は連れのアートとある街に立ち寄る。酒場での会話がヘミングウェイの「殺人者たち」並にハードボイルドだ。
そこに牧場主キンケイドが殺されて牛が盗まれたという知らせが入る。
街の長老デイビスが保安官が戻るまで待てと静止するが街の男達は復讐心に燃えて自警団を組んで犯人を追う。ギルとアートも加わる。
山の中で3人の男達を捉えはっきりした証拠がないまま絞首刑にする。
街に戻ろうとした自警団の前に保安官が現れる。キンケイドは怪我をしただけで死んでおらず牛泥棒は逮捕されたという。
自警団は無実の男達を処刑してしまったのだ。
愕然とする自警団の面々。ギルは殺されたマーティンが書いた手紙を読む。それが冒頭のセリフだ。
やり切れない虚しさが残る。しかしアメリカの白人男性達は今までにたくさん私刑を行ってきた。
悪い(かもしれない)奴らを吊るす。保安官や判事には任せられねえ。俺たちに任せろ。俺たちって男らしいだろぅ?
元軍人の父は息子を男らしく育てるために処刑に加わらせる。冤罪とわかって父をなじる息子に対して父は拳銃自殺する。
有害な男らしさが引き起こした悲劇。
太平洋戦争中に「男らしさの弊害」や「同調圧力」をテーマとした映画を作っていたアメリカ。やっぱり敵わないな。