青山

イタリアン・チェーンソーの青山のレビュー・感想・評価

イタリアン・チェーンソー(2005年製作の映画)
4.0

イタリア産のC級スプラッタ。
大好きなので、2回目の鑑賞。



人目につかない山中で別れ話をしていたカップルのリノとオーロラは、ラリったチンピラに暴行される。
そこに一台の車が通りかかり、運転していた紳士は見事チンピラを撃退する。紳士は2人に「私の家で休んで行け」と提案するが、その家こそは恐ろしい地獄で......。



はい、14人しか観てない2.8点とかのいかにもダメそうなC級ホラーなんですけど、これがなんというか、一言で言えば「個人的にどタイプ」でして......。
クラスの目立たない女の子の可愛さに1人だけ気付いてる自分を誇らしく思いつつも、彼女の可愛さをみんなにも気付いて欲しいみたいなアンビバレントな思い......みたいな複雑な恋心を、私は本作に対して抱いてるわけなんです......。

本作の何がそんなにタイプかって、これまた一言で言えば「雰囲気」なんですよね。
本作全体に、憂いや空虚さ、そしてインモラルな禁忌感が通底しているんですね。

例えば、冒頭でとある一家が悲劇に遭遇するシーン。
こういうホラーではありがちなくだりですが、両親と幼い男の子の乗る車が山道で事故って父親死亡、母親は通りかかった車に助けを求めるも轢かれてしまい、あろうことか運転してた男に撲殺され、思わず声を上げてしまった子供が追いかけられて......っていうのを、おちゃらけ抜きでやってるから結構どんよりした気分になるんですね。
これがジョギリとかチェーンソーでママが解体されて、とかだったら逆にクソ映画らしいアホくささが出ると思うんですけど、拾った石ですからね。音や色味もあるけど非常にリアルでシリアスで引き込まれるオープニングですよこれは。

からの、The Whitest Boy Aliveの「Burnning」という絶妙にサブカルくさい選曲で、学生(?たぶん?)カップルの別れ話というサブカルくさい導入なのでもうノックアウトされました。
だってこの曲を知ってたら絶対ドヤ顔で「こんないい曲知ってる俺」みたいにかけたくなる曲ですもんね。それをしっかりドヤ顔で流すセンスの良さに痺れますよ。
この曲自体も踊れるけどどこか憂いや倦怠感を帯びていて、本作の雰囲気にもマッチしてますしね。

そして、登場人物は大きく3つのグループに分かれるのですが、彼らもそれぞれに虚ろな存在で......。
主人公のオーロラとリノは方向性の違いで解散寸前の切なエモカップルだし、チンピラ達も薬と女に溺れるノーフューチャー感全開の刹那的存在で。
そして、ちょいワルオヤジ一家の設定がまたなんとも絶望的で......。
それが明かされるのは最後の最後なんですけど、彼らが人を殺してる理由が切ないんですよね。
それまでチェーンソー持った殺人一家ということで「悪魔のいけにえ」オマージュだったのが、結末の彼らの動機で一気にイタリアの某名作ホラーのオマージュに代わるから、「イタリアン・チェーンソー」という安直な邦題も、実はなかなか的を射てる気はしますね。

また、肝心のゴア描写も、安っぽくはあるけどアホくさくはなく、いい具合にインモラルな空気が流れています。
唯一、変な色のゲロを吐くシーンはちょっとやりすぎてる気がしましたが、他は血の量は多いけどギャグにはなってなくてちゃんとホラーとしての恐さがある良い雰囲気のグロさになってると思います。



てな感じで、C級ホラーって大体がちょっとおふざけ方面に向かいがちですが、本作はシリアスさを崩さずにキメてきてて、例えるなら「マーターズ」とか「ハイテンション」とかにも通じる"雰囲気"があるインモラルホラーで、その志も加味して極私的偏愛映画になってるわけでございます。
どうか本作のファンが増えますように、いや、増えませんように、という相反する気持ちを綴ってこの感想を終わりたいと思います。ばいちゃ!
青山

青山