リッキー

黙して契れのリッキーのレビュー・感想・評価

黙して契れ(2010年製作の映画)
4.2
988本目。190326
『黙して契れ』

ベネズエラ映画は初めてでしたが、邦題のタイトルに魅かれて鑑賞しました。
首都カラカスのスラムで生活している兄弟が、今の生活から抜け出そうと試みるが、結局生活を変えることが出来ず、ストリートギャングにはまってしまうのかと思いきや、サッカーを通じての青春物語でした。
最近の映画は画質がきれいで音質も豪華なため、本作品のように画質が粗く、音も貧弱な作りに若干の抵抗は感じましたが、物語は秀逸で「お金をかけずにおもしろい映画を作る」の原点を想い出させてくれました。

本作の主人公の兄弟、兄フリオと弟ダニエルはサッカーでは地元でも有名な選手です。
フリオは家計を助けるためにストリートギャングの手先として小銭を稼いでいるような勇猛果敢な兄であり、弟ダニエルは臆病な性格で、純粋にサッカー一筋です。
性格や顔も似ても似つかない二人ですが、本当に仲の良い兄弟です。

ある日、彼らの母が何者かに射殺されてしまいます。事件ではなくダニエルが絡んだ事故によるものでしたが、現場を目撃していたはずのダニエルは、犯人の名を言おうとはしませんでした。

ダニエルは赤子のときに、ゴミ捨て場に置き去りにされていたところを母に拾われて育てられました。彼はその恩義は忘れたことがなく、フリオよりもダニエルの方が母に対する愛情が強いはずなのに、何故黙していたのか。この事件以降、兄弟の絆にも微妙に亀裂が生じ始めます。作品を鑑賞してダニエルの内に秘める想いが痛いほどわかります。

エンディングは強烈です。こんな展開を誰が予測するでしょうか。

ベネズエラ社会の構造から今回の事件は発生していますが、個人がいくら頑張っても限界があるため容易に変えることはできません。こんな不条理な社会が変わることを切に願います。

ベネズエラでは野球と並んでサッカーが人気スポーツです。本作品の登場人物のように劣悪な環境の中、プロとして入団して活躍している人もいるかと思われます。プロスポーツではこのような体験を経てきた人たちと闘うのですから、よほどメンタルが強くなければ、勝ちあがれませんよね。背負っているものが違いすぎます。
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