櫻イミト

吸血のデアボリカの櫻イミトのレビュー・感想・評価

吸血のデアボリカ(1970年製作の映画)
3.5
小説「吸血鬼ドラキュラ」(1897)の映画化。主演クリストファー・リーが“最もプラム・ストーカーの原作に近い”とお気に入りの作品。ジェス・フランコ監督が後のミューズとなるソリダッド・ミランダを見出した一本。音楽は「ロミオとジュリエット」(1968)のブルーノ・ニコライ。原題「Count Dracula(ドラキュラ伯爵)」。邦題のデアボリカはフランス語で“悪魔”の意味。

【あらすじ】
19世紀末ルーマニア。弁護士ハーカーはロンドンの不動産契約書を届けるためトランシルヴァニアの城に住むドラキュラ伯爵(クリストファー・リー)を訪ねる。伯爵はハーカーが持っていた婚約者ミーナ(マリア・ローム)とその親友ルーシー(ソリダッド・ミランダ)の写真に興味を示す。城に宿泊したハーカーは三人の吸血女に襲われる悪夢を見て錯乱、部屋には外から鍵がかかっていたため窓から川に飛び込んで脱出する。目覚めるとそこはヴァン・ヘルシング教授(ハーバート・ロム)の精神病院。隣室の精神病患者レンフィールド(クラウス・キンスキー)は、吸血鬼のドラキュラ伯爵に娘を殺されたと主張していた。。。

※日本版DVD(71分)は大幅短縮され画質が劣悪だったため、海外版ブルーレイ(97分)を併せて鑑賞。

低予算でフランコ監督にしては演出は大人しめだが、「血とバラ」(1961)を想起させる耽美的な味わいがあった。豪華な共演陣もそれぞれ存在感を発揮していた。

ヘルシング教授を演じたのはハマー版「オペラ座の怪人」(1962)のファントム役ハーバート・ロム。後に「ノスフェラトゥ」(1979)でタイトルロールとなるクラウス・キンスキーはニヤニヤしながらハエを食べる狂人役を怪演。そして彼ら名優を喰う存在感を示したのがソリダッド・ミランダ。ドラキュラに狙われる悲劇のヒロインとしては史上最高のハマリ役と言っても過言ではない。吸血鬼として転生し森陰から子供たちを見ているロングショットは、その八頭身のスタイルも相まって耽美怪奇映画の中でも白眉の一枚画と思われる。

最初は白髪で髭を蓄えたドラキュラ伯爵が、映画が進むにつれ黒髪に若返っていくのは原作通り。ただ、演出シナリオ共に終盤で意外に盛り上がらず、ややトーンダウンしていく印象なのは残念。クライマックスの、ブルーノ・ニコライ(モリコーネ作曲劇伴の演奏指揮者として知られる)による邪教聖歌のような劇伴はとても良かったので、そのくだりの詳細に時間を割き、陳腐に見えた“動く剥製”のシーンをカットしていたら傑作になり得たと思う。

本作は本国スペインでヒットしメイキング映画も放映された(66分:ブルーレイに収録)。白黒で撮影されていて本編以上にゴシック怪奇ムードを楽しめた。伝説女優ソリダッド・ミランダの素の表情も映っているのでファンならば必見である。

※MEMO
「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)ムルナウ監督×マックス・シュレック
「魔人ドラキュラ」(1931) ブラウニング監督×ベラ・ルゴシ
「吸血鬼ドラキュラ」(1958) フィッシャー監督×クリストファー・リー
「ノスフェラトゥ」(1979)ヘルツォーク監督×クラウス・キンスキー
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