sleepy

ナイトビジターのsleepyのレビュー・感想・評価

ナイトビジター(1970年製作の映画)
3.8
寒いから走ってるんじゃないぞ ****




原題:Papegojan(鸚鵡の意味)、英語題:The Night Visitor(Aka. Salem Come to Supper), 1971年、スエーデン(デンマーク=米とするサイトもある)、カラー、106分、英語作品。1981年に「Lunatic」の題で北米で再公開された。日本の劇場未公開(地上波放映あり、BS等は不明)。

血まで凍りそうな北欧の白夜。雪の僻地の原を1人の男 (シドー)が肌着と靴のみで雪降る中を疾走する。彼は巨岩のようにそそり立つ海岸沿いの精神病院兼刑務所(Asylum)から出てきたようだ。なぜ出られたのか。何を目指しているのか。そして白き夜ごと、彼は脱走を繰り返してはその都度戻る・・。これには2年前のある事件が関係している。男は冤罪なのか。脱走は露呈するのか。ウルマンは彼の姉。オスカルソンはその夫役。ハワードはシドーに疑いを抱き、対峙する老練な刑事に扮する。

とにかく雪の白夜を走るシドーの姿が鮮烈。サイコスリラーであり、謎解きも絡んだ復讐サスペンスでもある。明晰かつタフ、執念深いシドーとその独房が不気味だ。目つきからして常人とは違う。サイコパスではないのだが、こんなのに夜な夜な訪れられるのは迷惑。しかし本当に黒き心を持つものは誰か・・。

暮れぬ夜、古城のような刑務所の内外の雰囲気描写が、ロケ、所内セットとも非常にそれらしくて素晴らしい。滲んだ墨絵みたいな全編ロケはスエーデンとデンマークで行われた。この建物は実際にあるのだろう。独房での刑事とのやりとりやシドーの佇まいやは少しだけだが「羊たちの沈黙」を思わせる。また、まったく毛色は違うが米映画「インソムニア」(2002年、ノーラン監督、アル・パチーノ、R・ウィリアムス、H・スワンク)やその元になった同名ノルウェー映画(邦題「不眠症」)も想起する。本作はかなりミニマムで地味だが。そして「暗くなるまで待って」「探偵(スルース)」「デストラップ 死の罠」とか「刑事コロンボ」とか好きな方にお薦めできる。

ハンガリー出身の監督のベネディクによる演出は手堅く、さりげない工夫(ジャックと豆の木など)もあるうえ、静かに病んだ空気を作りだしている。シドー、ウルマンはベルイマン作品で数度コンビを組んでいて、代表作は挙げきれない。ハワード(「第三の男」「息子と恋人」「ライアンの娘」等で知られる)英国の大俳優の貫録。

特筆すべき音楽はあのヘンリー・マンシーニ。シンセサイザー、12の木管楽器、オルガン、2つのピアノ、2つのハープシコードという編成で、かつハープシコードを変則的にチューニングすることにより、非常に不安定なスコアを提供している(wiki.en)。

原題である「鸚鵡」は本作の鍵で、観てのお楽しみ。もう少し良くできた感があるが、寂寞・陰鬱とした後味の悪さ、超薄着で雪の中を走るシドー、白夜という設定が妙に観る者に残る佳品。今日現在アマプラでは観られない。邦盤DVDは2種。

★オリジナルデータ:
原題:Papegojan、英語題:The Night Visitor(Aka. Salem Come to Supper) 1971年, ウエーデン, 106分(102分とするdbもあり). オリジナルアスペクト比(もちろん劇場上映時比を指す)IMDbでは表記なし, Color (Eastmancolor),Mono, ネガ・ポジとも35mm
sleepy

sleepy